人生100年時代。「人生最後の職場を探そう」と、シニア転職に挑む50、60代が増えている。しかし、支援の現場ではシニア転職の成功事例だけでなく、失敗事例も目にする。シニア専門転職支援会社「シニアジョブ」代表の中島康恵氏が、シニア転職現場のリアルを紹介する。

 今回のテーマは、シニア転職の場面で分かれる評価の現実について。これまでは社内の「出世レースの勝者」だった人でも、必ずしも転職市場で同じように勝てるわけではないという現実について伝えよう。

◆シニア転職が出世レースの「第2ラウンド」に?

 人生100年時代と言われる今、会社の雇用も65歳までが普通となり、70歳前後まで働く人も珍しくなくなった。

 では、いわゆる「出世レース」と呼ばれる社内のライバル同士の役職争いは今、どんな状況なのだろうか? これまでは、55歳などで迎える「役職定年」が出世レースの事実上の「ゴールテープ」だった。役員以外の人の場合、どんな役職についていても役職が外れ、平社員と同様になるからだ。

 一方で、出世レースの「第2ラウンド」と呼べる世界があるのをご存じだろうか。社内の出世レースが終わっても、ライバルの転職や再就職先、つまりセカンドキャリアが気になる状況が続くという。

 しかし、評価を積み上げていく社内の出世レースと、ミドル・シニアの転職・再就職での評価はまったく別の話。「自分が思ったように評価されない」「ライバルが予想以上に高評価・高待遇されている」という嘆きの声も多い。

 今回は、同じ会社の中でも「シニア転職がしやすい人」と「シニア転職が難しい人」に差が出るという話をご紹介しよう。

◆「本社の重職」VS「現場の主力」どちらが転職で有利?

 よくありそうなのは次のようなパターンだ。大手建設会社に勤めるAさんとBさんは、同期入社で同い年の59歳男性。Aさんは本社の事業本部長が最終役職。対するBさんは地方拠点で実際に現場にも出る管理職が最終役職だった。

 AさんもBさんも建設関連の保有資格は一緒だ。Aさんは30代前半までは管理業務もしながら現場にも出ていたが、30代後半からはほとんどがデスクワーク。40代で支社の部長、支店長を経て50代前半で本社事業本部長となり55歳で役職定年。

 一方、Bさんは30代前半まではAさんのあとを半歩追うような出世だったが、そこからは現場メインのキャリアを描き、地方拠点のトップを勤めたものの、社内の等級は課長級のまま、現場にも出て続けて役職定年を迎えた。

 この2人のうち、どちらが60歳以降、就職しやすいだろうか?

 もちろん、経歴以外のスキルや人間性にも左右されるが、回答としては、60代の転職の場合、AさんよりもBさんが転職しやすい。

 多くの場合、60代以上を採用する企業は「即戦力」を求める。もっと踏み込むと「現場の即戦力」だ。反対に、管理職経験やマネジメント能力などは、求める会社がまったくないわけではないが多くはない。まして、役職が大きく評価されることや、最終役職と同レベルのポストが用意されることは非常に少ない。

 当事者であるミドル・シニアの求職者も、社内評価と転職時の評価がイコールでないことや、シニアに近づくとこれまでの役職を維持した転職が難しいことはなんとなく理解している。しかし、その厳しさを甘く見積もってしまい、転職に失敗する人が続出しているのだ。

◆営業や管理職のシニア転職が厳しい3つの理由

「いやいや、営業だって即戦力では?」「マネジメント人材のニーズだってあるはずだ」といった声もあるかもしれない。

 しかし、ホワイトカラーのミドル・シニアの中でも人口の多い、営業や事務、あるいは管理職などの50代以降の転職では、専門職や現場の人材よりも不利になる要素が出てくる。例えば以下のようなものだ。

①スキルやその効果がわかりにくく転職後に活躍する確証が得られない
②若手を育成したいニーズが比較的強い職種
③求職者の人数は多いが、求人枠は少ない

 もちろん、営業や管理職のニーズも大きいが、即戦力を求めるシニア採用の場面では、具体的な技術や資格が仕事内容と直結している職種と異なり、実際にどんな成果が得られるのか確証が持てないことが、営業や管理職の最大のネックとなっている。

「営業力」や「マネジメント力」という言葉は具体的に何を指し、何ができるのかわかりにくい。類似の商品・サービスを扱っていても、企業によって違った営業方法や独自の営業方法があり、前職の手法が役に立たないといいうことがある。実際に期待を持って中途採用したものの、期待ほどでなかったという“失敗体験”を持つ企業は多い。

 そうした背景から、営業職などはどちらかというと若手を求める企業が多い傾向がある。育成すれば活躍してもらえる可能性が広がるからであり、育成期間を考えるとシニアではなく若手を採りたいという理由だ。

 管理職にも、外部のベテランを招聘するケースだけでなく、社風を理解し自社愛を持った生え抜きを抜擢したいニーズがある。

 こうなると、ミドル・シニア向けの営業や管理職の求人件数自体が少なくなる。ベテラン営業パーソンやベテラン管理職経験者のニーズもないわけではないが、求人の数は小さい。そのため、ミドル・シニア転職市場での営業や管理職は、かなりの「狭き門」となってしまっているのだ。

◆ライバルよりも有利なシニア転職を実現するには?

 では、営業や管理職に就いているミドル・シニアは、転職市場の評価がシビアでも黙って受け入れるしかないのかというと、そんなことはない。

 シビアな評価になってしまうのは、上記のように自身の経験やスキルが具体的にどのような成果を生み出せるのか、求人企業にわかりにくいことが主要な原因だ。つまり、採用後のメリットを求人企業に感じてもらえれば、評価につながりやすい。

 そもそも、「営業」や「管理」、「マネジメント」といったカテゴリは大きすぎる。履歴書にすべてを詰め込むことはできないが、職務経歴書や面接時の口頭ではもっと細かく、具体的な経験領域に触れるべきだ。

 新規営業とルート営業の違いや、フィールドセールスとインサイドセールの違いは明確だし、管理職でも育成が得意な人、目標などの数値管理が得意な人、業務の設計や人員配置が得意な人といった違いがあるだろう。

 そうした経験領域や得意分野が企業の求める人材イメージとマッチすれば、内定もグッと近づく。

 自身の強みを細分化するためにも、これまでの経験・スキルの“棚卸し”が不可欠だ。もちろん、営業や管理職などだけでなく、現場に近い専門職であっても、転職をより有利で確実なものにするためには、経験・スキルの“棚卸し”をしておきたい。

 管理職の場合は現場仕事から離れている期間がブランク扱いになる場合もあるため、もし可能ならば、社内では多少は現場に出て業務への慣れと実績を取り戻すことが有効かもしれない。社内で難しければ、副業を経験するのも効果的だ。

 いずれにせよ、出世レースのライバルよりも有利な形でミドル・シニアの転職・再就職を進めようと思うならば、これまでの経験スキルをいかに転職先に貢献できる価値に変えるかが鍵となる。未経験分野へのチャレンジを否定はしないが、有利な要素はゼロとなるだろう。

 私自身は、社員同士でも切磋琢磨が不可欠だと考えるタイプなのだが、特に男性は老後に友達が少なく孤独を感じやすい傾向があるので、どこかで出世レースはほどほどにして仲間の多い老後を迎えるという選択肢も、人によってはアリかもしれない。

【中島康恵】
50代以上のシニアに特化した転職支援を提供する「シニアジョブ」代表取締役。大学在学中に仲間を募り、シニアジョブの前身となる会社を設立。2014年8月、シニアジョブ設立。当初はIT会社を設立したが、シニア転職の難しさを目の当たりにし、シニアの支援をライフワークとすることを誓う。シニアの転職・キャリアプラン、シニア採用等のテーマで連載・寄稿中