◆パチンコ業界関係者が色めき立った昨年のクリスマス
パチンコホールの広告宣伝界隈が何やら騒がしい昨今。パチンコ広告宣伝規制“緩和”を謳うメディアも多く、「出玉放出イベント告知の再来か!?」とか「設定発表復活か!?」と色めき立つファンも見られるが……。果たして本当に“緩和”なのだろうか?
始まりは昨年12月23日付けで警察庁保安課が各都道府県警察本部に対して発出した「ぱちんこ営業における広告及び宣伝の取扱いについて」という通達であった。
今年の1月25日には警察庁保安課が全日本遊技事業協同組合連合会(全日遊連)、一般社団法人日本遊技関連事業協会(日遊協)、一般社団法人MIRAIぱちんこ産業連盟(MIRAI)、一般社団法人余暇環境整備推進協議会(余暇進)らホール4団体(パチンコホールのほとんどが加盟している4つの業界団体)に対し、この通達の趣旨説明を行った。翌26日、ホール4団体は加盟している各ホールへ「警察庁保安課長通達等を踏まえた広告宣伝の対応について」という文書を発表し、2月9日には「広告宣伝ガイドライン(第1版)」という全国共通のガイドラインを制定したのである。
この内容云々以前に、パチンコ広告宣伝のルールが改められたという事実だけで、パチンコ業界の人間は「“緩和”か!?」と思い込んでしまうというのだが、どういうことなのか。業界歴30年弱の事情通に話を聞いた。
「2011年の東日本大震災直後、パチンコホールは世間からバッシングを受けました。これを落ち着かせるべく、『ぱちんこ営業における広告、宣伝等に係る風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律違反の取締り等について』という通達を同年6月15日付けで行政が出します。
要するに『釘を開けます』とか『高設定を大量投入します』などの出玉放出イベントを規制して目立たないようにさせたわけです。しかしこれではホールに客が呼べないため、芸能人やパチンコライターを来店させて出玉放出を匂わすイベントを行ったり、隠語を使った高設定示唆をしたり。巧妙に規制から逃れようとしました」
◆経済活動の自由を奪うほどの規制とその抜け道
だが、こうした規制逃れを行政も黙って見てはいなかった。
「行政としては当然、『目立つなと言っているのに何をやっているんだ!』となりますよね。すると約1年後の2012年7月13日付けで『ぱちんこ営業における広告、宣伝等に係る風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律違反の取締り等の徹底について』という通達を出すわけです。“徹底”ということからして、かなり厳しい規制となりました。市場競争という経済活動の自由を奪うほどの規制です。
それでもなんとか抜け道を探すホールに対して、見つけては叩く行政。その果てには『晒し屋』という普通のファンを装ったインフルエンサーによる何気ないツイートや、広告代理店が作った『でっちあげYouTuber』が動画撮影に行くという名目で出玉放出イベント示唆のステマをするといった、限りなく黒に近いグレーな宣伝手段が横行しました」
10年にも渡る行政とのいたちごっこの末、あまりにも広告効果の薄いものを強いられたホールに客が集まるわけがなく、閉店する店が続出。こうした状況下で発表された広告宣伝のルール改定となれば、“緩和”以外にありえないということなのだ。
◆警察が異例の対応
出玉ランキングはOKのようだが…[/caption] ホール側の人間だけでなく、いわゆる“店が出す日”をわからずに困り果てていたファンにとっても長かった10年を経て、改められた規制は本当に“緩和”されたのか。具体的な内容を見ていこう。
今回、警察庁保安課の通達に関する業界団体からの質問に答えるという異例の対応がなされた。主に言い渡しばかりの通例を考えるとこれこそ最も大きな改革とも言えるが、それだけ「広告宣伝をちゃんとやれよ」という行政の強い意思表示でもあろう。
質問は大きく分けて6つ。1つ目は「国民的行事、地域の行事及び創業記念に関する広告及び宣伝」について。
例えばスーパーのチラシで「クリスマスの本日は鶏肉全品半額!」などの煽り文句はよくあるだろう。しかし「クリスマスの本日は全台大開放!」などの煽り文句をパチンコホールの広告には入れられなかった。新しい規制でもこれはダメだが「クリスマスパーティーの後は当店でパチンコを楽しんでね♪」などはOKとなった。
以前は「本日はクリスマス」というだけの文言すら出玉放出イベント示唆であるとされていたことを考えれば“緩和”だが、経済活動の視点からすると“正常化”レベルであろう。
ちなみに「さっぽろ雪まつりの合間に当店でパチンコを楽しもう♪」や「開店10周年記念の今日は是非ともご来店を♪」などはOKだが、「だんじり祭よりも激アツお祭り状態!」とか「開店記念の本日より夢の7日間が始まる!」などはNGである。
◆規制は緩和されたが射幸心は煽れない
著しく射倖心をそそるおそれのある広告宣伝が規制の対象であることには変わらない。
2つ目は「遊技機に関する広告及び宣伝」について。今まではいわゆる“強化機種”示唆を禁止すべく、広告などで特定機種の写真のみ大きくすることが禁止されていた。加えて新台導入時に推したい機種のみを大きく掲載することも禁止されていたが、写真の大小を付けても良いということになり、推したい機種だけの掲載も許されることになった。
例えば電気店のチラシに売りたいメーカーのテレビだけ大きく掲載するのが当たり前なことを考えれば、これも“緩和”というよりも“正常化”のレベル。7が3つ揃っている写真がNGだったことを考えれば、いかに厳しい規制であったかが判るだろう。「777」の写真に加えて新台の設置日や設置台数もOKに。ただしスマートスロットで「コンプリート期待度MAX」などの煽りはNGである。
◆設定示唆ももちろん禁止だが出玉ランキングはOK
3つ目は「遊技機性能に関する広告及び宣伝」について。遊技機の出玉率や継続率などのスペックに加えて、性能やゲームフローの記載が認められた一方、設定の一部を強調するのはNG(例えばパチスロで設定6の機械割だけを大きく掲載するのはNG)。またQRコード等を遊技機に貼り付けて占いなどが行えるようにするのもNGである。これは台のQRコードを読み込んで「今日は大吉」などと高設定示唆することを禁じているのだろう。
4つ目は「遊技結果に関する広告及び宣伝」について。いわゆる「出玉ランキング」の掲示が認められた。一部の地域ではOKだったが、全国統一のガイドラインとして認められたのである。今回の警察庁保安課の通達における大きなテーマとして「地域差の解消」がある。どの地域のファンも同じ条件で遊技できること。この「同じ条件での遊技」は行政が常に掲げてきたテーマだ。
出玉ランキングでは台番号順や特定の機種の結果のみ抽出して掲示するのはOK。コンプリート機能が発動したすべての遊技機について、その事実を単に伝えるのもOKだが、特定の日や期間の遊技結果のみ掲示したり、出玉ランキング表に「期待」などの文言を入れたりするのはNGである。
◆行政は規制緩和で“隠語”を撲滅させたい
5つ目は「営業時間に関する広告及び宣伝」について。「メンテナンスのため、15時オープン」などの告知を禁止している地域もあったが、射倖心をそそるような理由を付け加えなければ全国すべての地域でOKとなった(「本日18時オープン! 全台全機種大開放!!」などは当然NG)。
最後の6つ目は「駐車場における行事に関する広告及び宣伝」について。「本日、焼き鳥の屋台が駐車場に出店!」などの告知はOKだが、「焼き鳥の屋台出店! “鳥”がオイシイ!!」などといった、“鳥”が登場する機種が出やすいことを示唆するような告知はNGである。
このような隠語の撲滅も行政がテーマとして掲げているものだ。
◆規制緩和で何が変わるのか
警察庁保安課の質問応答に合わせてホール4団体が制定したガイドラインに則した具体例が以上となる。結局、これらは“緩和”となるのか。前出の事情通に聞いた。
「国民的行事、地域の行事及び創業記念に関する広告に関しては、国民的行事や祭りのときに出玉サービスを強化することはできますが、同地区競合店との差別化はできません。しかし記念日は客を呼ぶことが可能になります。遊技機に関する広告に関しては、実質、特定機種を示唆できます。3つ目の遊技機性能に関する広告は、同じ条件で遊技させたいのであれば、性能を記載させなかった今までが間違いと言えるでしょう。これは改正されたということですね。
営業時間に関する広告は告知で煽ることはできないにしても、時間を絞って出玉サービスを行うことは可能です。スマホゲームなどでメンテナンスのお詫びサービスなどは行えますから、それと同じレベルのことはやらせてもらいたいです。6つ目の『行事で客を集めて出玉サービスを行う』のも可能と考えれば、他店が平常営業の日にその店ならではのサービスで客を呼べるのだから規制“緩和”としたいところですが、他業種では当たり前の広告宣伝活動がある程度できるようになっただけですからね。経済活動が正常に近づいたといったレベルでしょう」
◆出玉ランキングの公表でボッタクリ店がバレる
ただ、ここでポイントとなるのが、4つ目の出玉ランキングだ。前出事情通によれば、「ランキングを常に掲示することで、本当にサービスしているのかがわかります」というように、客を集めるだけ集めて、実はサービスしていないとなれば当然、客は離れていくもの。効果の薄い無駄な広告や宣伝を減らして出玉に還元したいという優良店にとっては、これこそ本当の意味での“緩和”と言えるのではないだろうか。
今回のガイドライン制定で「晒し屋」や「でっちあげYouTuber」は自ずと必要なくなる。それでも影でこそこそと出玉放出イベントの煽りを入れようとしても、今年の秋頃に施行される予定の「ステルスマーケティング規制」で壊滅されるだろう。その結果、同じような広告宣伝が並ぶ中で差が出るのは出玉サービスである。
今後、出玉ランキングをまともに出していない店があれば、間違いなく優良店ではない。劣悪店があぶり出されるのならば、今回の広告宣伝規制は“緩和”どころか、改正ないし改良されたということだ。
文/日刊SPA!取材班