中小企業コンサルタントの不破聡と申します。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、「有名企業の知られざる一面」を掘り下げてお伝えしていきます。
 餃子をメインとした中華料理店といえば、「餃子の王将」と「大阪王将」が有名。どちらも「餃子の王将」をルーツとしており、のれん分けでそれぞれのお店が誕生しました。

 現在、「餃子の王将」は王将フードサービス、「大阪王将」はイートアンドホールディングスが運営し、それぞれ東証プライム市場に上場しています。しかし、一見似たビジネスを展開しているように見えますが、稼ぎ方は全く異なるのです。

◆コロナ禍にも関わらず生産力を高めた理由は?

 2社の違いを簡潔に説明すると、王将フードサービスが飲食店の運営、イートアンドは食品販売・卸が中心の会社だと言えます。勘のいい人であれば、イートアンドは冷凍食品の「大阪王将 羽根つき餃子」が主力商品だから、それは当たり前だと思うかもしれません。しかし、同社は2023年2月末時点で463店舗もの飲食店を運営し、売上高の4割は飲食事業で稼いでいます。

 それでも食品販売・卸の性格が強いのです。

 イートアンドの業績とビジネスモデルを詳しく見てみましょう。2023年2月期の売上高は前期比7.0%増の330億3300万円でした。

 2022年9月に関東第三工場を竣工。国内最大最速級の焼き餃子製造ラインを導入しました。生産力を増強したことで、食品事業の売上高が前期比6.7%増の200億5300万円となりました。2021年1月にも関東第二工場の新ラインを稼働させており、製造力の増強に努めています。

◆フランチャイズ加盟店が「8割」

 ちなみに500店舗近い飲食店を運営していますが、そのうちの8割程度はフランチャイズ加盟店が占めています。この「フランチャイズ比率の高さ」こそが、王将フードサービスとの一番の違いです。

 イートアンド飲食事業の主な役割は、フランチャイズ加盟店への食材の卸です。この会社が増産に努めているのは、飲食事業のビジネスモデルも影響しているでしょう。

 店舗の運営にかかる人件費や家賃などの固定費をカットしやすく、販売管理費を抑えやすいという特徴があります。その代わり、変動費に近い原価率が高くなる傾向があるのです。

◆“1000億円企業”まで目前の王将フードサービス

 王将フードサービスは、2023年3月期の売上高が前期比9.7%増の930億2200万円でした。2024年3月期の売上高は同5.7%増の983億2000万円を予想しています。1000億円企業目前まで到達しており、勢いのある会社です。

 2023年3月末の店舗数は732。そのうち、フランチャイズ加盟店は190店舗。FC比率は26.0%で、直営店主体の店舗展開を行っています。

 2社の違いは原価率と販管費率によく表れています。王将の原価率は31.6%、イートアンドは59.5%。王将の販管費率は59.9%で、イートアンドは37.7%です。割合は真逆になっています。

 王将は家賃や人件費の負担が重く、固定費が高いためにハイリスク・ハイリターンのビジネスを展開しています。

 このようなビジネスモデルの場合、コロナ禍のように急激な客数の減少が起こると、たちどころに営業赤字に転落します。競合の日高屋は2021年2月期、2022年2月期の2期連続の営業赤字を計上しました。

◆土壇場で見せた、さすがの“底力”

 しかし、王将は2021年3月期に60億7300万円もの営業利益を出しています。前期と比較してわずか2割の減益に留めるという快挙を成し遂げました。

 その主要因の一つが、テイクアウト・デリバリーの業容拡大に努めたこと。王将はコロナ禍に「レンチンシリーズ」の新発売や、デリバリーサービスの対応店舗拡大に動きます。

 2021年3月期のテイクアウト・デリバリーの売上高は前期の1.6倍となる246億800万円でした。売上高の構成比率は2割から3割に増加しています。

 テイクアウトやデリバリーの対応は、店舗オペレーションが煩雑になるため、店長やスタッフからは敬遠されがち。それを、あの天変地異とも言えるコロナ禍でやり遂げる力こそ、王将の紛れもない強みです。この会社は人材教育が徹底していることで有名ですが、迅速に体制変更できる点に、その成果の片鱗を垣間見ることができます。

◆アサヒビールが王将に与える影響とは?

 イートアンドと王将の2社は、経営戦略も大きく異なります。イートアンドは事業ポートフォリオの拡大に動いている一方、王将は主力事業に集中しているのです。

 イートアンドの飲食事業は、中華料理店だけではありません。ラーメン店の「よってこや」、「太陽のトマト麺」、ベーカリー・カフェ業態の「R Baker」、「コシニール」、たんめんを中心とした中華業態「一品香」などを展開しています。

 食品事業においても、「大阪王将 なにわのジューシー焼売」など、餃子以外の商品にも力を入れています。

 王将は店舗を出店して拡大するという基本戦略は、長い間変わっていません。効率化を進める王将は食品加工工場を5つ所有しています。餃子はもちろん、から揚げや春巻き、チャーハンなどの人気メニューもあります。冷凍食品などとして販売してもおかしくはありません。

 それをしない背景の一つに株主構成があると考えられます。王将フードサービスの筆頭株主はアサヒビールで、10.90%を保有しています。アサヒビールにとっては、王将が店舗を拡大し、供給するビールの量が増えた方がメリットはあります。冷凍食品を販売しても利益には繋がらず、あえてそれをするインセンティブがありません。

 イートアンドは創業者・文野直樹氏とその資産管理会社が、株式の3割近くを所有しています。サントリーの持株比率は2%程度。イートアンドは創業者の意向が強く反映されていると考えられます。

<TEXT/不破聡>



【不破聡】
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界