“結果にコミットする”で有名なRIZAPが手がける「chocoZAP(チョコザップ)」の躍進が目覚ましい。2022年7月から本格的にサービスを開始したchocoZAPは、わずか1年で全国に34都道府県1000店舗以上を出店。83万人以上(2023年9月28日時点)の会員数を誇るなど、破竹の勢いで快進撃を続けている。
 なぜ、“爆速”で事業の拡大が可能なのか。そこには、地に足つけてPDCAを愚直に回す「気概」と「努力」があった。RIZAP株式会社 取締役 chocoZAP事業責任者を務める村橋和樹氏に、chocoZAPの誕生背景や今とこれからを聞いた。

◆当初は「chocoZAP」ではなかった

 総人口の3〜4%といわれている日本のフィットネス人口を、欧米並みの水準である20%まで引き上げていく。さらに、RIZAPでボディメイクを経験した顧客に、生涯寄り添ってサポートするための受け皿を作る。

 そうした背景が新規事業を始める経緯となっている一方、村橋氏は「最初からchocoZAPという屋号ではなかった」と述べる。

「2021年10月、新宿御苑にchocoZAPの1号店を出店したんですが、その当時の屋号は『FIT PARK24』という名前でした。月額2980円でジムに24時間通い放題というのは現在と同じでしたが、従前からフィットネスジムに通う層が『値段の安さ』を理由に乗り換える需要が多く、このままだと3%のフィットネス人口の中でパイを奪い合う形になってしまう。どうしたら新規層にアプローチできるか、そこからさらなる試行錯誤が続いたんです」

 2店舗目は「FIT PLAZA 24」、3店舗目以降も「FIT FIELD 24」や「ZAPAN」など、さまざまな屋号に変えながら、価格やコンセプト、打ち出し方を模索していったという。

◆セルフエステマシンの導入が転機に

 こうしたなか、手応えを感じるきっかけになったのは、2022年2月に出店した経堂店だった。

「この店舗で初めてセルフエステマシンを導入したところ、普段はフィットネスに通わない新規の女性のお客様が増えたんです。当初から、トレーニング初心者の方が低価格で気軽にジム利用できるニーズを探っていましたが、エステ導入がひとつの転機となり、新規事業として提供できる価値の輪郭が少しずつ見え始め、出店にも勢いがついていったと考えています」

 このようなパイロット店舗での創意工夫や改良を経て、2022年7月に現在の「chocoZAP」にサービスを統合。この時点ですでに、店舗数を60〜70店舗まで広げており、さらなるブランド認知の向上や出店拡大を図るために、マーケティングやPRを強化していく。

◆チラシは500種類以上のパターンを用意

 そして、2022年11月に「日経トレンディ2023年ヒット予測100」で総合1位を獲得したのを契機に、TVなどのメディアへの露出が増え、認知度が上がっていったそうだ。

「『コンビニジム』として取り上げていただき、大きな反響が生まれたことで、出店の引き合いも徐々に増えていきました。出店におけるルールや判断基準については“立地”と“視認性”を重視しています。階段やエレベーターを上がる空中階の物件は、どんな人がトレーニングしているのかというのが見えづらいため、30〜40坪規模の路面店で営業できる物件を中心に出店を行っています。また、ガラス張りで中の様子を把握しやすくすることで、初心者や女性の方でも気兼ねなく安心してジムに入れる工夫も凝らしていますね」

 現在では全国から出店依頼が後を絶たず、毎月100店舗ペースで規模を拡大している。まさに他に類を見ない躍進ぶりだが、加えてchocoZAPを支えるのがマーケティング戦略だ。ポスティングや街頭でのチラシ配り、交通広告や屋外広告、さらにはチラシは500種類以上のパターンを用意し、バナー広告は4000種類もの検証を重ね、ものすごい労力をかけてマーケティングを“科学”してきた。

「いろんなPDCAを怠ると、すぐに飽きられてしまう。社長の瀬戸(健)自身も、そのような経験をしてきたことから、新規事業のchocoZAPに関しては、本気でフィットネス業界の常識を覆す事業を作るべく、徹底的なPDCAで効果検証していくことを意識してきました」

◆思いついたアイデアは全て試す

 マーケティング戦略を立てるなかで、事業を伸ばす鍵になるのは「チラシのポスティング」だと捉えていたという。立ち上げ当初は役員自らポストへチラシを投函するなど、チラシの重要性を感じていたからこそ、そのデザインにも相当のこだわりを持っていた。

「カラーやテキスト、サイズ以外にも脱毛だけ訴求したり、RIZAPの文字を入れたり入れなかったり。訴求軸や切り口など、ありとあらゆるパターンを試し、効果的な勝ちパターンを探っていきました。

 心がけたのは『アイデアの発散をしたら、全部やってみる』こと。正直、どんなにクリエイティブを考えても、お客様がどういう反応を示すかは不明で、正解があるわけではありません。答えのないものだからこそ、『お客様に聞いてみる』ことが大事だと考え、思いついたアイデアは全て試したんです」

◆ライザップらしい“お節介さ”のアプリ体験

 そのほか、無人型店舗として運営するchocoZAPは、専用アプリを提供し、セルフトレーニングに励む体験設計を行っている。村橋氏は「自社でデジタル人材を採用し、内製でアプリ開発ができる体制を整えてきた」とし、留意している点を次のように説明する。

「chocoZAPの会員様は100%アプリを活用されます。また会員様全員にアプリと連携するスターターキットをお配りしております。様々なデータから1to1でお客様のログを分析し、様々な継続促進を行っているんです。

 例えば、継続率を維持するための取り組みとしては、1週間以上来店が空くとプッシュ通知が飛ぶようになっていますが、“土下座”するような動画や写真のクリエイティブを作り、ライザップらしい“お節介さ”が伝わるようにしているんですよ。また、店舗や時間別に混雑状況を可視化したりと、運動習慣の定着や利便性の観点から随時アップデートをしていく予定です」

◆限られたスペースでいかに満足感を高めるか

 今後の展望として、2026年3月期までに2000店舗を目指しているが、「そこはあくまで通過点に過ぎない」と村橋氏は言う。全国にはおよそ5万店舗以上のコンビニがあるとされていて、坪数も近いchocoZAPもコンビニジムという形で肩を並べるためには、まだまだ道のりが長いということなのだろう。

「メインのユーザー層である20〜30代の女性のお客様を中心に、これからも老若男女問わずに多様なニーズに応えながら、事業を成長させていければと考えています。そのためには、ふとした瞬間に立ち寄れる環境を作ることが大事ですが、そういう意味ではユーザーがいつでも行ける場所に十分な数出店できているとは全然言えない状況です。そのため、引き続き出店拡大ができるように努めていく予定です。

 さらに、成長のキードライバーは『限られたスペースでいかに満足度を高めるか』が大事になってきます。例えば、100人中1人しか使用しないトレーニング器具を置いていてもお客様の満足度向上には繋がらず、スペースを無駄にしてしまいます。それだったら他のサービスに入れ替えたりと、お客様がより満足していただける空間に変えていく。こうしたことを愚直にやり続けていきたいですね」

 立ち上げから1年経った今でも右肩上がりの成長を続けるchocoZAPは、この先どのような展開を見せるのか。RIZAPグループの手腕が試されると言えるだろう。

<取材・文・撮影(人物)/古田島大介>



【古田島大介】
1986年生まれ。立教大卒。ビジネス、旅行、イベント、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に執筆活動を行う。社会のA面B面、メジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ることを大切にしている