城下尊之【芸能界ぶっちゃけトーク】

 名優の田中邦衛さんが亡くなられた。多くの人が追悼コメントを出し、代表作として「北の国から」が多く扱われた。

 僕としては、子供の頃から映画館に行かせてもらって見ていた映画「若大将シリーズ」での青大将役が、真っ先に頭に浮かぶ。加山雄三の敵役で、大企業の社長の息子。若大将に事あるごとに対抗しているが、妙なことに嫌な気分にさせない、印象的な演技だった。

 映画「仁義なき戦いシリーズ」も記憶に残っているし、テレビ時代劇で渡辺謙主演の「仕掛人 藤枝梅安シリーズ」の元締役も忘れられない。

 どの役柄でも田中さんらしさは出ているのだが、それぞれ別の味わいを持つように役を演じているところが素晴らしい。

 と、つまりは子供の頃からファンだったということだ。

■自宅で張り込むと…

 残念ながら、田中さんに単独でインタビューするようなチャンスはなかったが、とあるエピソードを思い出す。今から二十数年前のことだろうか、他のマスコミがどこも知らない情報が入ってきた。それは、田中さんが胃を壊して入院し、手術を終えて自宅に戻るという情報だった。退院はめでたい話であるし、本人に確認すれば病状なども判明するので、田中さんの自宅にテレビクルーと一緒に張り込んだ。

 自宅の駐車スペースに車がないので、家族が病院に迎えに行っているのだろうと推察し、玄関先で待っていたのだが、一向に戻ってくる気配がないまま夕方になってしまった。仕方なく、インターホンを押して番組名を名乗り、退院のことを尋ねたのだが、「留守番の者で、まったく分からない」の一点張りだった。

 その動きから30分後、局に連絡するとプロデューサーが直々に出て「すぐ帰ってこい」と妙に厳しく言われた。こちらが「スクープですよ。もう帰ってくるかもしれません」といくら説明しても、「理由はあと。戻れ」という指令で局に戻った。そして、その取材に関係した仲間が呼び集められ、プロデューサーから言われたのは、「田中さんから丁寧な連絡があり、確かに退院して自宅に戻ろうとしたが、テレビ局がいるので帰れないでいるそうだ。田中さんは今、胃腸薬のCMに出ていて表沙汰にすると多方面に迷惑がかかってしまう。だから今回のことは他言無用」ということだった。

 胃腸薬のCMに胃の手術、そりゃまずいよね……とみんな妙に納得したものだ。役者とテレビが程よくいい距離を保っていた頃のことだ。

 今だったらニュースに載せただろう。古き良き時代の出来事である。

(城下尊之/芸能ジャーナリスト)