「天才・たけしの元気が出るテレビ!!」「ねるとん紅鯨団」「浅草橋ヤング洋品店」など多くのバラエティー番組を生み出したテリー伊藤。「全裸監督」でAV監督・村西とおるの半生を活写したノンフィクション作家の本橋信宏氏の最新作は、テレビ界の鬼才“出禁をおそれず壁を突破し続けた天才ディレクター”の伝説だ。

 テレビの歴史は、テリー伊藤以前と以後に分かれると言っても過言ではない。「天才・たけしの元気が出るテレビ!!」「ねるとん紅鯨団」「浅草橋ヤング洋品店」。いずれもこの男が演出した伝説の番組である。

 テリー伊藤が生み出した数々の演出法。

■伝説1 テレビ慣れした素人よりも、テレビに出たい素人を起用

 Vサインをカメラに向ける素人を嫌ったテリー伊藤は、なんとかあいつらを出さないで宝探しができないか思案。金日成が生存していた1993年、北朝鮮観光に行った際、少年宮殿という外国人に披歴する会場で少年たちがモールス信号、手旗信号を学んでいたことを思い出し、お宝が眠っている場所を解くにはモールス信号、手旗信号、手話のいずれかを知らないとわからないクイズ大会を逗子海岸で挙行。海岸には手話を理解するろうあ者が埋め尽くした。Eテレ「バリバラ 障害者情報バラエティー」よりはるか昔、テリー伊藤は身障者をゴールデンタイムに招き入れた。

■伝説2 悪人をテレビに出演させた

 テリー伊藤が興味を持つ人物は、「隣に住んでほしくない人」。

「元気が出るテレビ」では、パンチパーマの強面相沢会長、「浅ヤン」では大声でわめき散らす料理人金萬福、恐怖のサラ金取り立て人・杉山治夫会長が登場した。

 ワイドショーで何度か杉山会長とやりあったミッキー安川も登場。杉山会長が札束を投げつけると、ミッキー安川も応戦。「対決はテニスで!」とテリー伊藤からの提案で、第2回出演では、さわやかテニス対決を予定、コート脇には天地真理が立ち、「あなたーを待つのーテニスコート」と応援歌を歌うはずだったが、諸事情から中止に追い込まれる。

■伝説3 危険動物と人間のギリギリの競演を実現

 稲川淳二にワニの歯ブラシを命じたり、ヘビのプールに飛び込ませたり、トラの荒れた唇にリップクリームを塗らせたりした。

■伝説4 ばかばかしすぎて誰もやらないことをあえて地上波で

 東京12チャンネル(現在・テレビ東京)でオンエアされたゴールデン番組「いじわる大挑戦」。たこ八郎に東大生の血を輸血したらIQは上昇するかを実験(結果は上昇せず)。テリー伊藤の実父が病死する際に使った酸素ボンベで何かできないか考えた末に、たこ八郎の全身に金粉を塗ってマラソンさせてどこまで走れるか挑戦(途中、失神状態で中止に)。

■伝説5 イチゴを大福に入れるミスマッチ感覚に着目

 異種を組み合わせるとそこにオリジナルが生まれる。

 早朝ソープというソープランドの宣伝を見て、さわやかな早朝と淫靡なソープのミスマッチが面白いと、何か“早朝”でできないかと思案、寝ているところに侵入して爆発音を響かせる「早朝バズーカ」を誕生させる。

■伝説6 絶妙なカメラワークを駆使

 高田純次がリポーターで登場すると、リアルさを出すためにあえてカメラが後ろから追った(それまでは前から撮っていた)。本人を褒めるときは本人に向けて、けなすときはカメラに向かってしゃべる。さりげないカメラワークで、臨場感を出した。

■伝説7 初々しさを出すためにあえて下手な語り手を

 素人参加番組「ねるとん紅鯨団」で、番組紹介する際の女性アナウンスは、語りがうますぎると初々しさが薄まるので、アナウンスが下手な女性を選んだ。

■伝説8 簡略化した横書き台本を初めて使用

 タレントがのびのびと面白い自由なセリフを発せられるように、台本は余白を大きくとった。台本通りの仕上がりには満足せず、予想外の展開を喜んだ。

■伝説9 タレントの個性を尊重

 江頭2:50がまだ芸風を模索していたとき、ジャージー姿の江頭に、上半身裸になるように助言、以後独特のスタイルになり、強烈な個性を発揮しだす。

■伝説10 お笑いに対決の構図を持ち込む

 城南電機・宮路年雄社長と大塚美容外科・石井秀忠医院長がともにロールスロイスを所有していたことから、ロールスロイス対決を思い付く。カーレースで車体がボロボロになる。

「中華大戦争」と称し、人気中華料理店店主、周富徳・富輝兄弟、金萬福を登場させて、得意の中華料理の腕前を競い合わせる。3人はそれぞれ人気タレントに。

■伝説11 ADは白いズボンをはけ

「制作スタッフはタレントと同等だから」とテリー伊藤は常に主張、制作側の地位向上を願った。白いズボンはディレクターの矜持だった。

■伝説12 筋書きのないお笑いドキュメンタリーを考案

「ねるとん」では毎回、素人の男女が参加、誰がカップルになるかカメラが追い、筋書きのない展開が視聴者を引きつけた。

 現在、外国のテレビで「ねるとん」形式を真似た番組がよく出現する。「早朝バズーカ」は外国の著名監督もよく知るコーナーである。

 テリー伊藤演出の番組はいまでは外国テレビ局から模倣されるほどになった。

 私が大学2年生のときに、番組で知り合った小さなテレビ制作会社の若手ディレクター。それがテリー伊藤こと伊藤輝夫だった。

「出禁の男 テリー伊藤伝」(イースト・プレス)は、45年間の交流を通して書き下ろしたものである。

 テリー伊藤流演出は過激過ぎて、現在の地上波では多くが放送不可能である。だからこそ、せめて活字で残しておこう。出禁をおそれず壁を突破し続けたひとりの天才ディレクターの演出法と半生を。

▽本橋信宏(もとはし・のぶひろ) 1956年、埼玉県所沢市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。私小説的手法による庶民史をライフワークとしている。執筆はノンフィクション・小説・エッセー・評論まで幅広い。著書に「裏本時代」「AV時代」(共に幻冬舎アウトロー文庫)、「東京最後の異界 鶯谷」「戦後重大事件プロファイリング」(共に宝島SUGOI文庫)、「上野アンダーグラウンド」(駒草出版)など。「全裸監督 村西とおる伝」(太田出版/新潮文庫)が、山田孝之主演で「全裸監督」「全裸監督シーズン2」としてネットフリックスから世界190カ国に配信され大ヒットとなった。