【正解のリハビリ、最善の介護】
患者さんと精神的にも強く関わりながらリハビリを進める作業療法士(OT)は多くの役割を担っています。中でも手の機能回復を担当する“手のスペシャリスト”であると前回お話ししました。
手がきちんと動けばいろいろな作業ができるようになります。そのために、前回触れたような上肢と手の訓練はもちろん、機器を使用したリハビリを頻回に実施して、少しでも手を動かす機能を回復させます。
「ブレーン・マシン・インターフェース(BMI)」という先端機器を使用することもあります。患者さんの脳と手を機械で接続し、頭の中で「動け」とイメージしてその脳波が表示されると、手に装着したロボット装具が動くことで、その運動に関わる神経機能を回復させていくシステムです。
こうした先端リハビリを行うためにも、手が固まらないようにしながら、とにかく正常域内で手や肘を最大に伸ばす、最大に曲げる機能を維持することが必須になります。疼痛なくそれぞれの可動域を最大に保つというのを大前提に、少しでも手で作業する機能を回復させるのが作業療法士の重要な役割なのです。
ただし、手が動かせるようになったからといってすぐに生活ができるわけではありません。次の段階でADL(日常生活動作)訓練が必要になります。
トイレ、洗面、入浴、着替え、調理、食事など、日常生活で行うさまざまな一連の動作を繰り返し、ひとりで行えるように訓練します。認知症でこうした日常生活動作を忘れてしまった患者さんに対しても、動作を思い出させて繰り返し行ってもらいます。楽しく思い出させるのが作業療法士の腕の見せどころです。その際、患者さんが行う作業工程をシンプルに整理して、できるだけ動作しやすくするのも作業療法士の仕事です。
また、病気やケガによる高次脳機能障害や認知症の患者さんは脳の一部が壊れてしまっているため、記憶力だけでなく、注意力、遂行力、修正力もだいぶ低下しています。それらを向上させるため、その患者さんが達成できるレベルの課題を与えて自信をつけてもらい、“できること”を増やしていくのも作業療法士の役割です。うまくいかない課題を訓練する療法士は患者さんに嫌われてしまい、患者さんが訓練を拒否するようになります。
■退院後の就労は重要なリハビリ
そうしたリハビリを繰り返し、日常生活動作ができるようになって、患者さんは自宅退院されます。そして、作業療法士は退院後も重要な役割を担います。患者さんの「復職支援」です。
高次脳機能障害の場合、気持ちが穏やかに復職してもらうことがいちばん大切なリハビリになります。復職して就労するか、誰かの役に立つ手伝いをするなど気分が豊かになる活動をしていないと、徐々に症状が増悪したり、認知機能が低下する傾向があるのです。また、認知症でも働ける状態であれば復職することが同じく重要なリハビリになります。
ですから、われわれは「65歳までの患者さんは絶対に復職させる」ことを目標にして、作業療法士はさまざまなサポートを行います。ただし、復職すると膨大な情報が入り、うつになる可能性があります。そこで、ご家族と職場が協力して、必要な情報量を調整して徐々に慣らしていく必要があります。
高次脳機能障害や認知症の患者さんで復職が可能になる条件は、①病状が安定すること②自分が働きたい意思があること③日常生活が自立すること④感情を抑えられること⑤自分の障害を説明できること⑥自分の障害を代償して就労ができること⑦通勤が自立すること⑧週5日就労できること--という8項目が必須です。作業療法士は、それを可能にするために外来や訪問でのリハビリメニューを組んだり、復職支援事業所などの施設と連携しながらサポートしていくのです。
一方、65歳を越えた患者さんは復職ができません。その場合、作業療法士はその人がその人らしく生活できて人生を楽しく全うできるように「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」の取り組みを実践し、患者さんの生活と活動を支援します。つまり、ACPとして、社会貢献できる仕事に就いて、無理なく働いていただく時代なのです。
回復期病棟や老健でのリハビリ治療はもちろん、外来、通所、訪問といったリハビリだけでなく、復職やACPなどの支援といった多岐にわたる役割を担う作業療法士は、超高齢社会において極めて重要になっているといえます。
(酒向正春/ねりま健育会病院院長)


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