【不動産業界 噂の現場】

「上下関係の厳しい職場だったけど、ここまでとは」

 40代の建設作業員が語る。上下関係といっても、怖い親方の話ではない。いまでは上が140で下が90の血圧が怖いという。

「これが令和の“上下関係”だね」

 建設業界で囁かれ始めた、こんな冗談を笑えない現実が広がっている。

 大手を中心に現場入場前の健康診断書提出が厳格化され、高血圧や糖尿病の数値によって作業制限がかかる現場がじわり増えているという。

「ケガしたわけじゃないのに、高血圧だというだけで現場に入れない。健康管理が大事なのは分かるが、仕事がないとそれはそれで困る」(前出の作業員)

 かつては「風邪くらいで休むな」と言われた業界で、今や健康診断の数値が仕事の可否を決める時代になりつつあるようだ。

 厚生労働省と国土交通省は2025年度予算案で「建設業の人材確保・育成」に向けた総額250億円規模の支援策を打ち出した。中でも注目すべきは「働き方改革推進支援助成金」に92億円を計上し、現場の健康配慮型環境整備を強力に後押しする点だ。この政策転換の背景には、業界が直面する深刻な現実がある。大手建設会社の社員は語る。

「安全と作業員の命を守るための措置で、今に始まったことじゃありません。ただ、年々と現場の高齢化も進行しているので、働き方などはいつも以上に意識するようになっています」

■深刻な高齢化

 業界の高齢化は厚労省の資料でも明らかだ。現場で働く技能者のうち60歳以上の割合が約4分の1を占める一方、29歳以下は全体の約12%しかいない。つまり建設現場は、「おじさん」たちの経験と体力に支えられているのが実情である。

 新たな予算案では、建設業の「人材確保」「人材育成」「魅力ある職場づくり」の3本柱で取り組みを進める。

 建設事業主等に対する助成金が69億円、ハローワークにおけるマッチング支援に50億円なども盛り込まれている。

 さらに、2025年度予算では全国約45カ所で職人など一人親方向けの無料安全衛生研修が継続されるほか、2000現場以上で技術指導も実施される予定だ。現場の健康管理や安全対策を支える動きが活発になっている。

 一方で、中堅建設会社の社員のように「健康管理は大切だが、あまり厳しくすると、日本の建設技術を支えてきたベテランが一気に現場から消える。その技術伝承をどうするのか」懸念する声もある。

 腕は落とさずに、血圧は落とす。それが令和の職人の道になりそうだ。

(小野悠史/ニュースライター)