入院の日の午前中までレコーディングでした。意識したつもりはありませんが、あとから聞くと「これが最後かもしれないと思っていたのかな」と思うほど詞の世界に入り込んでいて、すごく丁寧に歌っていることがわかります。曲名も「運命が二度あるなら」という歌で、まさに運命を感じました。

 あの日は、「これが終わったら入院」という不安がありつつも「よし! もう先生に任せるしかない」というスッキリとした覚悟もあって、いつもより集中できてとってもいい感じのレコーディングでした。

■すごく痛くて「子供みたいに泣いた」

 手術したのは大腸がんの中の「盲腸がん」です。発見されにくいがんですが、僕はもともと糖尿病持ちで、毎月、血液検査をしていました。そこで少し数値に異常があって内視鏡検査をしたら、しこりが見つかったのです。後日、医師から「ステージ?だけど、心配だからお腹を開けて取りましょう」と言われて、開けてみたらステージ?だったそうです。

 手術は、2〜3時間でした。切ったのはヘソの下あたり15センチほど。麻酔から覚めてすぐは、すごく痛くて、「痛いよー! おかぁちゃん」って泣いたくらい。おかげさまで痛みは半日ぐらいで引きましたが、66歳のおじさんが子供みたいに泣くんですから、きっと看護師さんたちに笑われてたろうな(笑い)。

 10日間ほどで退院したのですが、何がツラかったって“夜9時消灯”です。普段は昼ごろ起きて、寝るのは朝方3〜4時ですから、9時に電気を消されたってぜんぜん眠れません。音楽をイヤホンで聴きたくてもシャカシャカ音が漏れてしまうから周りにご迷惑でしょう? おまけに病院の食事は少ないから、腹がへって余計に眠れない……。入院中はそれとの戦い。手術よりツラかった。

 実は僕、抗がん剤治療はしていないんです。がんのステージ?ともなると、リンパ節から他の臓器に転移の可能性があるから、医師からは勧められたんですが、前々から抗がん剤には疑問があって断ったんです。

 抗がん剤は、がんもやっつけるけど、いいところも壊してしまうって聞いていたから、なんとなく納得できなくてね。免疫力が弱くなってしまうことも心配で。それで、まぁ、民間療法というか、自分が納得した方法を続けているんです。

 おかげさまで3年経ちましたが今のところ転移もなく順調です。でも、やっぱり月1回の血液検査の前は毎回心配でたまらないんです。

 だから、結果が変わっていないとうれしくてうれしくて、ついつい祝杯を挙げちゃうんです。CM曲を担当しているからじゃないですけど、「いいちこ」で(笑い)。毎回心配して毎回祝杯、それを36回ほど繰り返して今に至っています。

■「検診を年に1回やっていればよかった」

 病気をして変わったことといえば食事でしょうか。外食は控えて、塩分、糖分は少なめに、ご飯は玄米です。糖尿病があるので薄味に努めていて、仕事の現場で出るお弁当は味が濃いから、お湯で洗いながら食べています。医師からは1日の摂取カロリーは1300キロカロリーと言われていますが、その辺はアバウトに、食う時は食って、食わないときもつくるという感じでやっています。

 酒量も医師からは「ほどほどに」と言われていますが、ちょっと飲み過ぎる傾向があります。今夜もじつは飲むので、今日が終わったら1週間は禁酒。でも、4〜5日ぐらいでまた飲んじゃうかな(笑い)。

 病気をして一番言いたいことは「内視鏡や胃カメラの検診を年に1回はやった方がいい」ということです。みんな検診を面倒くさいとか怖がって先送りするけれど、2〜3年ほったらかすとポリープ程度じゃ済まなくて、がんになってしまうこともあるんです。そうなったときは、検診の怖さの何倍、何十倍です。僕も内視鏡検査を何年もやらずにいたので、「年に1回やっていればよかった」とすごく反省しました。だから今、みなさんに声を大にして言いたいのです。

 ただ、病気になってみてわかったこともあります。それは「人の思いやり」です。元気な時には感じにくかった周りの人の気遣いに感謝が多くなりました。

 病気のことは、母親には話しませんでした。母は昨年他界したので、今頃「なんだ、進はがんだったのか」と気づいたんじゃないかな。96歳でしたが、病気もせずに元気で明るく、誰にも迷惑を掛けずに、ある日家でバタンと倒れて、お手伝いさんが振り向いたらグーグーいびきをかいて寝ていてそのまま……。とても理想的な最期でしょう? 僕も母のように最期まで元気で“笑って終わりたい”と思います。

▽すがわら・すすむ 1947年、東京都生まれ。「白いブランコ」「また君に恋してる」などのヒット曲で知られる兄弟デュオ「ビリー・バンバン」の弟。ソロ活動では「いいちこ」などのCM曲も多数手がける。7月26日には、ビリー・バンバン初のDVD「BillyBanBan3年越しの45thAnniversary〜“兄”と“弟”の復活祭〜」を発売する。