「クーラーを浴びても上半身が涼む前に足が冷たくなる」「足が重く、歩くとだるさを感じる」――こんな症状がある人は「末梢動脈疾患」(PAD)を疑った方がいい。かつては「閉塞性動脈硬化症」(ASO)と呼ばれたこの病気は、手足の末梢の動脈硬化が進んだ病気。放っておくと心筋梗塞を起こしたり、足を切断することにもなりかねない。東邦大学名誉教授で平成横浜病院健診センターの東丸貴信医師に聞いた。

 田中智明さん(仮名、65歳)は定年後、家に引きこもるようになった。外出するのはコンビニで週刊誌を買うときくらい。大半はテレビを見るなどして自宅で過ごしていた。

 そんな田中さんを2年前の夏、胸をつかまれるような強い息苦しさが襲った。担ぎ込まれた病院で血管内治療を行い、ことなきを得たが、心筋梗塞だった。

「田中さんは重度の糖尿病を患っていて、心筋梗塞で倒れる数年前から足に重だるさを感じていました。少し歩くと右側のふくらはぎに痛みが走ったそうです。家に引きこもっていたのはそのためです。倒れた当時は、クーラーにあたると上半身が涼しくなる前に足が冷たくなった。田中さんは“単なる冷え性”と考えたようですが、末梢動脈疾患を患い足の動脈が塞がっていたのです」

 末梢動脈疾患とは、足や手などの末梢の動脈硬化が進む病気。日本の推定患者数は50万〜100万人。70歳以上に限ると15%、高齢者の糖尿病患者では実に半数以上がこの病気だといわれる。

■最終的には切断も……

 とはいえ、“足や手の細い血管が詰まったからといって心筋梗塞と何の関係があるのか?”とピンとこない人もいるだろう。しかし、動脈硬化は足や手の細い血管だけに起こるわけではない。足の重だるさは心筋梗塞や脳梗塞の前兆なのだ。

 実際、約7万人が対象となった「REACH研究」では、末梢動脈疾患の患者の50%が冠動脈疾患を、25%に脳血管疾患が認められている。

「怖いのは、この病気の患者さんの60%がいくつもの血管と臓器の病気を抱えていたということ。しかも末梢動脈疾患の人の死亡率は5年間で30%と報告されているのです」

 末梢動脈疾患は重症度により4つに分類される。?度は無症状、?度は歩くと足の筋肉への血流が不足して痛みが出て休みながらでないと歩けなくなる、?度はじっとしていても痛くなる安静時痛が表れる、?度は潰瘍・壊死が起こる。

 末梢動脈疾患では、脳や心臓に問題が起きなくても足の病変を招くことが多い。?度では足の切断リスクは5年後に数%、?度では1年後には30%に跳ね上がるとの報告もある。

「長期間糖尿病を患い、腎臓と心臓に病気を抱えていた70代の男性は、家族が右足の中指に小さな傷を見つけた2週間後には5本すべての指先に傷が見つかりました。膝から下に血流がほとんど流れておらず、傷が治らなかったのです」

■腕、腎臓の動脈が詰まる場合も

 むろん、足や心臓、脳に異変が起きなくても、この病気にかかっていれば腕や腎臓、上腸間膜動脈などが詰まる場合もある。

「腕の動脈が詰まることはマレですが、手のしびれや脱力を感じます。上腸間膜動脈が詰まれば、食後にお腹が痛くなり、食欲が落ちて体重が減ります。腎動脈が詰まれば腎血管性高血圧や腎不全を起こします」

 問題は、こうした合併症を招く末梢動脈疾患という病気を知らない中高年が少なくないことだ。

「徐々に動脈が狭窄していくと急に強い症状が出ません。田中さんのように“冷え性だろう”“年だから痛みが出るのは当たり前”と考える中高年が多いのです」

「足の冷えやしびれ」「皮膚が冷たい」「歩くと痛いが、しばらくすると治まって歩ける」「足の毛がない」「傷の色が黒い」などの症状が出たときには病状は進み過ぎている。では、どうしたらいいのか?

「腕と足の血圧の比である足関節上腕血圧(比=ABI)や血管超音波検査、MRI血管撮影検査(MRA)、造影CT検査などを受ければ早めに診断できます」

 わざわざそのためだけに病院に行くのは抵抗があるという人は、人間ドックや健康診断のオプション検査で受けるという手もある。末梢動脈疾患の患者は、血管内治療や手術によりウソのように元気になるケースも多い。心当たりのある人はまず検査だ。