あおり運転はその典型だが、最近は怒りを抑えられずに衝動的な行動を取る人が増えているようだ。職場でも理不尽な上司、不真面目な後輩、悪質な顧客など、怒りの種には事欠かない。しかし、怒りを爆発させて我を忘れることは、社内での自分の立場を悪くするだけだ。自分の怒りをコントロールするにはどうしたらいいのか? 日本アンガーマネジメント協会・アンガーマネジメントファシリテーターで精神科医の「上島医院」(大阪府)・渥美正彦院長にその極意を聞いた。

 怒りは、自分の感情に不安や疲労、不快といった負の感情がたまっていった状態に加え、自分にとって許せない出来事が降りかかったときに爆発する。それはあたかもコップから水があふれるように、止めることができなくなったようなものだ。

「しかし、その怒りのピークは実は6秒程度しか持続しません。すぐに相手を怒鳴りつけないで、深呼吸する。いま話すと危ないな、と思ったら、『あとで話すから10分後に来てくれ』と言うなど、最悪の心理状態のときに相手と話すことをやめるのもトラブルを避ける効果的な手段です」

 こう言う渥美院長だが一方で、まったく怒らないことを推奨しているわけではない。むしろ、怒るべきときにはきちんと怒る。自分の怒りをルールに基づいて適切に運用することが大事なのだという。

「もし、あなたが以前に失礼なことを言われても笑ってやりすごし、後々までそのことを思い出してイライラするのなら、それはそのときにきちんと怒るべきだったのです。大事なのは、自分はどのようなときに怒りを感じるのかをきちんと観察し、『このようなときには怒ってもいい』というルールを定めることです。カッときたときに6秒だけ待てば、本当に、いまは怒るべきときなのかどうか、正しく判断できるでしょう」

 6秒の間に、「深呼吸する」「一口水を飲む」といったことを渥美院長は勧める。

「たばこを吸う」という人もいるだろうが、たばこは依存物質であり、ニコチンが切れたときにまたイライラするだけなので、怒りをたばこで紛らすのはあまりお勧めしない。

■「べき」の基準は人によって違う

 渥美院長自身は、医療スタッフが医療用語を正しく使わないときなどにムッとくることがあるそうだが、注意する前に、「自分が注意する内容や伝え方が正しいか」を一呼吸おいて考えるという。「医療用語を正しく使うべき」というのは渥美院長の価値観で、怒りというのは、自分の「べき」と、他人の「べき」が異なるときに起こるものであるということを理解することも大事だという。

「たとえば、新入社員が会社の電話を一向に取ろうとしなかったら、先輩社員としては怒りたくなりますよね。それは、『会社の電話は取るべき』という自分の中のルールから、その新人が外れているからです。しかし、この『べき』の基準は世代によっても変わる。固定電話を取った経験がない、いまの若者は、電話とは自分の携帯にかかってくるもので、それ以外は他人への電話なのだから取るのは失礼であり、取らないべきという『べき』を持っているかもしれないのです。その『べき』の違いまで想像できると、ただ怒鳴りつけるのではなくて、違った注意の仕方もできるのではないでしょうか」(渥美院長)

 怒りのコントロールについて、虎の門病院精神科部長などを歴任し、89歳のいまも現役精神科医として「虎の門山下メンタルクリニック」で診療を行う栗原雅直医師は、このように話す。

「医者の場合は、医療スタッフがミスをすると患者の命に関わる場合もあるので怒るわけですが、一方で下手に感情を出すとそれに反応して激高する患者も中にはいるので、自分の気配をなるべく消すような訓練もしているものです。医者がカッとなるときというのは、患者や医療スタッフに対して上の立場から、自分の言い分を押し通そうとする自意識が働いているものです。しかし、年を重ねてくると、“どうせ思い通りにならないのだから、あるがままに任せていたら状況の中で自然に道が開けるだろう”という境地になってくる。そうなると、もう怒ることもなくなるものです」

 前出の渥美院長によると、猛暑のさなかなどもイライラが募るため、怒りやすくなるという。

 季節はようやく暑苦しい夏が過ぎて秋に入ったところだが、たとえ暑さがぶり返しても、怒りのコントロール術を身につけた医師の教えに従えば、怒りを爆発させることもなくなるはずである。