【牛次郎 流れ流され80年】#55

 文字は読めないし書けない。だれかにストーリーを話して書いてもらう“聞き書き”も、しゃべれないのだから不可能だ。物書きとしては、死んだも同然になっていた。そんな時、オリジナルの“出会わない系のリハビリ”を思いつく。

 やり方は簡単だ。出会い系サイトにアクセスし、自己紹介や女性への質問などを考えてメールを送る。すると写真付きの返信が来るので返事を書く。この繰り返しだ。これが言語を取り戻す訓練になった。

「出会い系って1回のメールに書ける文字数が決まっているんだよ。それも良かったんだろうな。だらだらと長く書けるようだと、短い文章の中で思っていることを伝えようとして工夫する必要がないから頭を使わなくていい。これじゃあリハビリにならないよ。

 まあ向こうだって、一度にドバッと書けるような仕組みにしちゃうと商売にならないだろ? 少しずつ何度も繰り返し書かせることで小銭を落としてもらえるんだからな。必ず返信が来るのもよかった。向こうからすれば、どんなヤツが書いているのか分からないんだけど、とにかく送り返さないと途切れちゃうから必死だよ。おかげで好きなだけやりとりを続けることができた。あんなにタメになるサービスはないね」

■ビットキャッシュに70万円

 ただし、カネはかかった。

「サービスを利用する時はコンビニで電子マネーのビットキャッシュを購入しなきゃならない。それをチャージすればメールのやりとりを続けられるシステムだ。気がついた時には1カ月に70万円ぐらい使ってたよ」

 最近は本当に出会いを求める男女が登録しているアプリもある。実際にデートまでこぎつけ関係を深めるケースも少なくないが、「出会わない系」のリハビリに使うのは、もっと“怪しいサービス”だ。

「そっちの分野に強い知り合いがいて、仕組みを聞いたことがあったんだよ。メールを送っても、写真の女性が存在しているわけじゃない。代わりのだれかが、このメールを送ってきたのはどんなヤツなのかって推理して、どう返事を書いたら食いついてくれるのかを考え、練りに練った文章を送り返しているんだよ。

『写真とシステムのお皿(CD―ROM)がそれぞれ1枚ずつあれば、だれでもやれますよ』だって。相手がもう飽きてきているな〜って思えば、『私、××で〜す』って別の女性を装ってメールを送るんだ、写真も変えてな。だもんで、出会いがないのは百も承知なの。ただ、こっちは文章を書くことが目的だから、そこはどうでもよかった」

 自力で少しずつ言語を取り戻していった。=敬称略

(取材・文=二口隆光/日刊ゲンダイ)