「同業者から『売り上げを前年の5割減にしておけば持続化給付金100万円が出る。みんなやっているから大丈夫だ』と誘われ、ネットで申請したら1週間後に100万円が振り込まれてきました。でも今は心配で――」

 こう不安げに話すのは、都内で飲食店を経営するオーナー(55)。さらに話を聞くと、「確かにコロナの影響で売り上げは減りましたが、前年の5割までは減らなかった。昨年3月は約350万円でしたが、申請した今年の3月の売り上げはその約4割の140万円で提出してしまいました。今は振り込まれた100万円を返還しなければと悩んでいます」。

 新型コロナウイルスの影響で売り上げが減少した中小企業や個人事業主に支給される国の持続化給付金は10月19日までに360万件、約4・7兆円に上った。この1週間で約6万件、1000億円のペースで急増中だ。その一方、売り上げの虚偽申請による不正需給が急増、詐欺罪での逮捕者が全国に広がっている。

 中小企業庁が給付する支援金は法人が最大200万円、個人が100万円だ。不正受給が横行する元凶は、前年の青色申告書の控えや売り上げ台帳などの書類を用意するだけと申請条件が甘く、手続きがごく簡単なこと。そのためSNSを使って虚偽申請書の作成ノウハウを伝授し、手数料を取る請負人も後を絶たない。

 摘発され詐欺罪で有罪になれば10年以下の懲役が科せられる。さらに自主返還がなければ年3%の利息にその合計額の20%の加算金が科されることになる。不正受給者の摘発やこうしたペナルティーの報道を聞き、摘発、逮捕を恐れて持続化給付金の返還を希望する受給者が今、中小企業庁や警察に殺到してきているのである。

「6月ごろから『不正受給をしたようなので返還したい』という相談が全国の消費者センターに200件以上寄せられています。さらに梶山弘志経産相が、『中小企業庁が調査を始める前に自主的返還すれば、延滞金、加算金は求めない』と会見で言われた10月6日以降、返還の相談が殺到しています」(消費者庁消費者政策課)

 ちなみに前述のオーナーは返還届を出したというが、こうした不正受給者の返還要望は今後さらに増えるといえる。法政大学大学院・真壁昭夫教授がこう指摘する。

「政府が不正事件の温床をつくりましたね。無防備におカネをバラマキ過ぎ、不正受給の斡旋、幇助(ほうじょ)で手数料を取る者がいるとなると、今度は刑事罰で取り締まる。リスクを考えない政府のあまりの計画性のなさが問題なんです。何もせずにおカネがもらえるとなれば誰もがやる。こんなルールは誰でも使いたいと思いますよ」

 悪意がなくても犯罪者になる危険を持続化給付金は兼ね備えているのだ。

(ジャーナリスト・木野活明)