東北で起きた地震なのになぜ東北より関東の方で多く停電したのか? 13日夜に震度6強を記録した福島県沖地震。首都圏でも大停電が発生し、復旧まで3時間ほどかかった。ただ、ひとつ不思議だったのは、街をひとつ隔て、停電しているエリアとしていないエリアがあったこと。一体どんな違いがあるのか。

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 人口約59万人の埼玉県川口市は県内2位の都市。近年は住みたい街にも選ばれる人気エリアだ。

 先日の地震では、この川口市で1万戸以上の停電が発生した。真っ暗な中で市民が見たものは、荒川の対岸に煌々と輝くタワーマンション。「やっぱり東京は特別なのかな……」と感想を漏らす川口市民は多かった。

■福島県沖地震では約95万戸が停電

 こう言うと身もふたもないが、川口市民の感想はほぼ当たっている。今回の地震では、東京電力管内の埼玉、千葉、神奈川、茨城、栃木、群馬、山梨、静岡(富士川以東)の8県で約86万戸、東北電力管内の宮城、福島、岩手、新潟の4県で約9万戸の計95万戸が停電したが、唯一停電しなかったのが“東京”だったのだ。

 その説明をする前に、停電のメカニズムをまずは知っておきたい。東京電力と中部電力による出資会社で、今回の地震で稼働が停止した広野火力発電所5、6号機(出力計120万キロワット=福島県広野町)を操業するJERAの広報担当者がこう説明する。

「電気は、電気をつくる量(供給)と消費量(需要)が常に一致していないと、周波数に乱れが生じます。今回は複数の火力発電所が停止したため、供給が減って周波数が下がってしまいました。それをそのまま放置すると電気の供給を正常に行うことができなくなり、大規模停電に至ります。そこで安全装置を発動させて供給と需要のバランスを取ったのですが、その点については配電を行う東京電力パワーグリッドさんに聞いてみてください」

■電力が足りなくなると自動装置が発動

 つまりどういうことかというと、どこかのエリアを人為的に停電にしないと、2018年9月の北海道胆振東部地震(震度7)で起きた全域停電のブラックアウトのようなことが起きてしまうのだ。では、改めて東京電力パワーグリッドに聞いてみよう。

「地震などで発電所が停止した場合、一部地域の送電を停止するシステムが自動で発動するようにできています。停電するエリアは恣意的ではなく、人口密度やライフラインなど総合的に判断しております。また送電の停止はコンマ数秒で行われます。すべてプログラムされたもので、職員が停止ボタンを押しているわけではありません」(広報担当者)

なぜ川口市や船橋市ばかりが…

 まさしく肉を切らせて骨を断つ、といった苦渋の選択というわけだ。

 ただ……東京の人を守るために人身御供にされる住民はたまったものではない。今回は川口市のほか、千葉県では市川市・船橋市、神奈川県では川崎市(高津区・宮前区)、横浜市港北区、相模原市、寒川町・茅ケ崎市などで各1万戸超の停電が確認されている。2つの市域にまたがるのは利用する変電所が同じためで、反対に同じ市でも変電所が異なれば停電しない場合もある。さらに東北から遠く離れた静岡県でも富士市の6万戸など県全体で約17・5万戸が停電した。こう言っちゃ悪いが、そこそこ人口が多くて、その割に重要官庁がないところが、“都合のいい街”にされてしまったようだ。

 そうは言っても、東京電力の職員が何も意地悪でそうしているわけではない。現在は非公開だが、電力不足の万が一の備えとして、「計画停電」のグループ分けが行われた。さらにこれを変電所単位の5つに分け、計25グループに細分化。これこそが、送電を止めるエリアの優先順位の目安になりそうなのだ。

■東京23区と横浜市中区は優遇

 東京電力は全ての地域を計画停電の対象としているが、“社会的影響”を考慮し足立区と荒川区を除く東京23区と、横浜市中区は対象外になっている。この地域に住んでいる人は、少なくともブラックアウトを防ぐために行う停電に関してはめったに起こらないと考えていい。

 次に技術的に可能な範囲で「特例」が考慮されるのが、「医療機関」(救命救急センター・周産期母子医療センター・災害拠点病院など)、「国の安全保障上極めて重要な施設」「国の主要な機関」「都道府県庁」「警察本部」「消防本部」などのあるエリア。つまり、県庁のあるさいたま市浦和区、千葉市中央区などのエリアのこと。ちょっとブラックだが、「原子力発電所周辺30キロ圏内」も特例の対象だ。

 さらに、鉄道、航空、金融システムなどについても影響を“できる限り緩和”するとしているので、羽田空港の大田区や東京証券取引所の中央区はダブルで安心できる。

 関西圏や中部圏も考え方としては同じだ。

「自動で停電させる範囲は、発電所の停止規模によっても違います。その地域が必ず停電すると決まっているわけではありません。また、電力は各電力会社で融通し合っておりますので、今回の福島県沖で起きた地震のように、東海地方以西で発生する南海トラフでも、東京など関東で停電が起きる可能性はあります」(前出の東京電力パワーグリッド広報担当者)

 一方、県庁所在地など特例エリアの属するグループとは別のグループに入ってしまった市区町村は、停電の可能性が高まるエリアだという見方もできる。例えば、千葉市中央区と別グループになった、市川市、松戸市、千葉市美浜区、船橋市など。さいたま市浦和区と別グループの、さいたま市西区、ふじみ野市、所沢市、富士見市などだ。

■復電も優先される

 復電についても優先順位はある。経産省の「災害時における現行の優先復旧の考え方」によると、首都直下地震など東京が被害を受けた場合、官公庁施設、病院施設、報道機関、広域避難所などが優先復旧の対象。東京電力管内には全体で1614もの変電所(地中も含む)があるが、これら優先順位の高い地域からインフラの修理が進むという。災害時、自衛隊の駐屯地となる予定の東京臨海広域防災公園(13・2ヘクタール)のある江東区有明のタワマン住人は、他のエリアより電気の明かりが戻るのが少し早いかもしれない。

 あまり神経質になる必要はないが、自宅を購入する際のひとつの参考材料にはなるかも。