昨年4月に緊急事態宣言が初発令されて1年が経ち、企業や組織でテレワークが推進される中、ボトルネックになっているとされるのが、紙の書類への押印業務だ。いまだにハンコを押すためだけに出社しなければならない人も少なくない。

 政府による「脱ハンコ」の旗振りもあり、デジタル印鑑の利用が広がっている。ネット上にも自作デジタル印鑑の解説があふれている。PDFに自作の印鑑画像データを張り付ければ、押印の法的効果を得られるのか。結論から言えば微妙だ。法的問題をクリアするために「立会人型(クラウド型)と呼ばれる電子署名サービス」を提供する企業もある。デジタル印鑑の提供を含むデジタル署名サービスを請け負うもので、契約両当事者の間に入って契約締結の電子的な証明を提供する。

 SMSや電子署名のサービスを提供する「CM.comJapan」(本社オランダ)のカントリーマネジャーの中藤丹菜さんに話を聞いた。

「電子署名と電子印鑑は見かけは同じですが、法的な位置づけは異なる。弊社が作成した朱色の丸印や角印などの電子印鑑は日本企業の社内ルールに合わせ、日本人の心理的ハードルを下げるために作成したもので法的な意味はありません」

 日本でも昨年7月から電子署名法に準拠したものが電子署名として法的に認められ、総務省など3省の行政ガイドラインで認められるようになったが……。

「日本企業もまだまだ理解されていないようです。当事者が合意すれば口頭でもメールでも契約は成立しますので、自作の電子印鑑も通用はします。しかし、いざ言った言わないの争いになれば、紙媒体でなされた契約であれば署名や押印、それも実印であれば立証の有力な証拠になります。実印と同じように、PDFの電子署名に電子証明書とタイムスタンプ(デジタル時刻証明書)の裏付けがあれば法的保護を受けることができます。タイムスタンプはいつ合意したかを記録し、PDFが改ざんされれば、その日時も記録される技術です。労働者派遣の現場でもリモートでの電子署名が認められるようになりましたが、雇用契約はトラブルが多いので要注意です」

 印鑑製造販売をしている関西のSirusiという会社が3月に発表した調査結果によると、コロナ後の押印業務について「変わらない」が72.4%と最多、さらに36.3%は「物理的な印鑑でハンコ文化を継続している予定」と回答したそうだ。

 政府は99%の行政手続きについて、ハンコ廃止を掲げているが、日本人のハンコへの信頼は強固。脱ハンコにはしばらく時間がかかりそうだ。

(取材・文=平井康嗣/日刊ゲンダイ)