【メジャーリーグ通信】

 ドジャースとカブスの日本での開幕戦に際し、アニメ「鬼滅の刃」と大リーグのコラボレーションムービーが作られた。

「鬼滅の刃」の重要な主題の一つである「想いの継承」を日本の野球の発展の歴史という側面から描き、アニメ版「鬼滅の刃」で主人公たちがさまざまな剣技を繰り出す際の描写と同じ視覚効果で両チームの日本人選手の活躍を表現したのが今回の映像である。

 海外で事業を行う企業であれば進出先の実情に合わせた宣伝活動を行うのは当然のことであり、大リーグ機構も例外ではない。実際、昨年のソウルで行った公式戦で、人気のK-POPグループや著名な歌手を国歌斉唱や試合開始前の特別公演に起用した。

 また、メッツとフィリーズが対戦した昨年のロンドン・シリーズでは米国のコメディードラマ「フィラデルフィアは今日も晴れ」の原案者で主要人物マックを演じるロブ・マケルヘニーが宣伝用の映像に出演した。本作は英国でも高い人気を誇る番組であるだけに、現地の人々の注目を集めるには適した内容だった。

 それでは、「鬼滅の刃」と共同した今回の映像はなぜ、制作されたのだろうか。

 大リーグの側から見るとき、日本向けの大きな要因として挙げられるのが、20代から40代の女性に厚い支持層を持つのが「鬼滅の刃」であるという点だ。日本のプロ野球のテレビ中継を視聴する割合が相対的に低い20代から40代の女性の注目を集めるために、「鬼滅の刃」は大きな訴求力を持つことになる。

 映像はYouTubeやTikTok、Instagramなどでも公開されており、日本にとどまらず世界に向けた宣伝の一環をなしていることが分かる。各種SNSなどでは軒並み多くの閲覧者と高い評価を獲得しており、世界各地で広く知られ、米国でも強い支持を得ている「鬼滅の刃」を利用し、大リーグだけでなく野球そのものをより身近なものに感じてもらおうとする機構の意図が奏功している。

 米国では、特に10代後半から20代が「鬼滅の刃」に親しんでいる。そのため、“Kimetsu”として米国の若者にとって馴染みのある作品との連携は、アメリカンフットボールやバスケットボールに比べて古めかしい印象を持たれがちな野球の新しい一面を示すために好適となる。

 一方、「鬼滅の刃」を手掛ける日本側にとっては、大リーグとの協業は競争力の高さを改めて認識させ、世界的な知名度をさらに深化させ、映像を制作したufotableの実力をより多くの人たちに伝えることになる。

 この映像は、2分14秒という限られた時間を最大限生かした試みなのだ。

(鈴村裕輔/野球文化学会会長・名城大准教授)