米国ハリウッドを拠点にコメディアンとして活動するミニタニ氏は、2022年から昨季までの3シーズン、大谷翔平を追ってエンゼルス、ドジャースの全502試合を現地観戦。「TERIYAKI TIMES(テリヤキタイムズ)」と題したYouTubeチャンネルなどで現地の様子を発信している。今や世界的に知られる“大谷フリーク”だ。早朝や深夜の格安便を駆使し、過酷な移動を繰り返す。寝不足の日々、飛行機の遅延の恐怖、時には極限の綱渡り……。なぜここまでして追いかけるのか。想像を絶する挑戦のリアルとは──。
◇ ◇ ◇
ミニタニ氏が渡米したのは06年。コメディアンとしてアメリカンドリームを掴むためだった。
英語を学びながら舞台に立ち、映画のエキストラとして働く日々。そして12年、ダルビッシュ有(現パドレス)のモノマネ「ミニビッシュ」として活動を開始。現在の「ミニタニ」を名乗り始めたのは21年からだ。
「ミニビッシュとミニタニ、どちらの活動も続けながら、おふたりを全力で応援しています。僕もモノマネ界の“二刀流”です(笑)。大谷選手は前人未到の領域に挑み続けていますが、その姿勢は、僕が渡米した頃の気持ちと重なる部分があるんです。だからこそ、強く惹かれました。僕も違う側面から野球を盛り上げ、大谷選手を応援したい。その思いが、ミニタニ誕生の原点です」
最初は「全試合を観戦してみたら面白いだろう」と、軽い気持ちで始めた。しかし、実際に活動をスタートすると、全試合観戦がいかに困難な挑戦であるかを思い知ることになる。
ホーム戦の日は、試合開始の4時間前に自宅を出発し、3時間前に球場到着。その場で取材や撮影を行い、動画のネタを探す。試合中、大谷が本塁打を打てば、落下地点へ猛ダッシュし、その瞬間をカメラに収める。ホームランボールをキャッチしたファンへのインタビューも欠かせない。試合後は、すぐに編集作業が待っている。
節約のために10人部屋、「連続観戦」の壮絶プレッシャー
「過酷ですよ(笑)。編集が朝5時までかかることもあります。翌日がデーゲームなら、寝る暇なんてありません(笑)。ビジター戦はさらに大変。活動費を抑えるため、飛行機は早朝5時台の便や深夜0時台の便を利用します。早朝に到着すると、宿のチェックインまでの時間で編集作業を進めることも。宿泊費を節約するために、例えばサンフランシスコ遠征では、2段ベッドが並ぶ10人部屋のドミトリー(1泊約25ドル)を愛用しています。ベッドは硬いし、何より海外の人はイビキが強烈で(苦笑)。疲れが抜けにくいですね。それでも、そこで交流した人たちから現地ならではの表現や野球の専門用語を学べるので、ポジティブにも捉えています」
試合、撮影、編集に追われ、昨シーズンは一日も休みがなかったそうだ。
さらには「連続観戦記録」の重圧ものしかかる。日本国内だけでなく現地ファンの間でも知名度が高まり、連続観戦が「ミニタニ」のブランドであり、アイデンティティーとなっているのだ。
思いがけない病気やケガ、寝坊はもちろん、悪天候などで飛行機が欠航すれば、その時点で記録は途絶える。まさに、極限の綱渡りの日々が続いている。
「もはや、これは絶対に果たさなければならない義務のようになっていて、そのプレッシャーは言葉では言い表せないほど凄まじい。正直、今もストレスで体調が優れません。悩みのタネは、ドジャースの日本開幕戦のチケット。端末4台を駆使して購入サイトにアクセスしましたが、競争率が高すぎて接続できず……。誰かに譲ってもらうしか方法がなく、方々に声をかけて奔走していますが、どうなることやら……。ミニタニ史上最大のピンチ。YouTubeアカウントの乗っ取り被害に遭った時よりも、焦っています(※インタビューは2月下旬)」
ドジャース移籍で観戦費用が激増も…
心身の負担に加え、活動費用もバカにならない。年間の出費は、大谷がエンゼルスに所属していた頃は約250万円だったが、ドジャースに移籍した昨季は約450万円に跳ね上がった。
大きな要因は2つある。まず、ドジャースのシーズンチケットがエンゼルスの約4倍の価格であること。さらに、ポストシーズンの観戦費用が加わったことだ。
「特にワールドシリーズのニューヨークでのビジター戦チケットは、立ち見でさえ約17万円。それが3試合分ですからね」
とはいえ、悪い話ばかりではない。
実は、もともとミニタニ氏にとってドジャースは、初めてメジャー観戦をした球団であり、特別な愛着がある。さらに、エンゼルスと同じロサンゼルスが拠点のため、移動の負担が少なく、金銭面以外のデメリットはほとんどない。むしろ、全米屈指の強豪チームに移籍したことで、大谷のメディア露出が増え、その恩恵を受けるようになった。
「ドジャースで良かったですよ。一時期、大谷選手の移籍先にブルージェイズ説が流れた時期は、本気でカナダ移住を考えましたから(笑)。昨季の大谷選手の活躍とチームの躍進のおかげで、僕の『TERIYAKI TIMES』の登録者数や再生回数も跳ね上がり、活動費は十分ペイできるようになりました。さらに、日本のテレビ番組からの出演オファーも昨年だけで約80本。大谷選手の影響力のすごさを改めて実感しています。歴史的な瞬間を次々と作り出していて、その影響が自分にも及んでいるのですからね」
活動の中で最も大切にしているのが「現地ならではのリアルを届けること」だ。
現地で大谷のリアルな評価は?
「現地のナマの声や、ファンのありのままの反応をそのまま日本の皆さんに届けたい。特に『大谷選手は実際、どう評価されているのか』と気になる方は多いはずです。でも、時間や金銭的な制約があり、誰もが簡単に現地の様子を知れるわけではありません。だからこそ、僕の活動にも意味がある。大谷選手やメジャーリーグ、アメリカの魅力を発信し、大谷選手とは違う方向から日本を盛り上げていきたいと思っています」
現地でのリアルな大谷の評価とは、どのようなものなのか。
「間違いなくスーパースターです。ロス市街を歩けば、いたるところに大谷選手の巨大な壁画があり、昨年、市は5月17日を『大谷翔平の日』に制定しました。もはや街のシンボルと言っても過言ではありません。今では野球ファンに限らず、極端に言えば全米の半分以上が大谷選手の名前を知っていると思います。現地のファンは口をそろえて『Once-in-a-lifetime player(唯一無二の、一生に一度しか見られないスーパースター)』と言っています。ビジター戦でも、大谷選手をひと目見ようとするファンが殺到する。地元チームを応援しに来たはずのファンまでもが、大谷選手の打席を食い入るように見つめています。僕の肌感覚ですが、三振しただけで球場全体がどよめく選手なんて、大谷選手くらいでしょう。それほど観客の心をつかんでいる。最近では『ベーブ・ルースと比べて……』という議論もなくなりました。それだけ突き抜けた存在になっているんです」
大谷と同様に、ミニタニ氏自身の知名度も日に日に増している。しかし、タレントとして大谷に接触するつもりはなく、あえて距離を置いているという。
「試合のプレーをしっかり見ているので、それ以上の接触は不要だと考えています。サインをもらうことがあっても、あくまで僕個人としての行動です。もちろん、『挨拶した方がいいのかな……』と悩むこともありますが、僕から積極的に近づいて“キモい”と思われても嫌ですし(笑)。何より、大谷選手に余計な手間や迷惑をかけたくありません。でも、いつの日か、大谷選手の方から『ミニタニに会ってみたい』と思ってもらえるといいですね。彼に話しかけてもらえるくらい、もっと影響力を持てるようになりたいんです」
プロデュースした寿司屋が大当たり
アメリカンドリームを追い求める気持ちは、渡米当時から今も変わらない。米国では、売れっ子のコメディアンが自分を主役にしたリアリティー番組を持つことが、一流の証しとされている。ミニタニ氏も、自身のリアリティーショーを持つことを目標にしており、「ミニタニ」としての活動も、その夢への足掛かりだ。
「まるで修行のような日々、試練の連続です」と、こう続ける。
「この3年間、大谷選手を追いかけ続け、生活のすべてを捧げてきました。娯楽や遊びの時間は一切なく、失ったものもたくさんあります。が、後悔はしていません。おかげで今の自分がある。テレビにも出演できるようになり、自分の夢に一歩ずつ近づいていると実感しています。大谷選手がメジャーに挑戦し、初キャンプの第1打席から1000億円契約をつかむまで、その過程をずっと見てきました。僕も夢をかなえたい。先にアメリカに来た者としても、自分の道を極めたい。活動の幅をどんどん広げて、1000億円を稼ぐつもりです」
新たな挑戦のひとつが、ロサンゼルス市内での寿司店プロデュースだ。昨年3月にオープンした「Mori Nozomi」は、食材の9割以上を日本から取り寄せ、日本と変わらぬ本格的な寿司を提供。さらに、日本人の女性職人が大将を務めることでも話題を集め、開店初年度で現地メディアが選定する「ロサンゼルス ベスト101レストラン」、「ニューレストラン ベスト10」(3位)に選出された。今後は、系列店の展開や、ブランディング力を生かしたキッチン用品の商品開発なども視野に入れている。コメディアンとしても、経営者としても、一切手を抜くつもりはない。
では、「ミニタニ」の活動はいつまで続けるのか。
「モノマネではなく、自分自身の人生を歩みたい」
「大谷選手のホームランボールをキャッチできたら、そのシーズン限りで一区切りつけるつもりです。3年間、全試合を観戦し、昨季の開幕から世界一までを現地で見届けたファンは、たぶん僕だけ。長いメジャーの歴史を振り返っても、そんな人間は他にいないはずです。その経験が大きな財産、自信にもなった。やるべきことはすべてやり切ったと胸を張って言えます。移動やチケット確保の問題で、いつ活動がストップしてもおかしくありませんが、全力で最後まであがき続け、結果としてその時が来ても、正直、悔いはないと思っています」
だからこそ、ミニタニ氏が今季掲げる目標は、「ホームランボールをキャッチすること」だ。
「もちろん、大谷選手とドジャースの契約が残るあと9シーズンも考えています。すでに3年間続けているので、合計12年。もしそこまで続けるなら、その頃には『ミニタニ』ではなく、自分自身として生きていたい。誰かのモノマネではなく、誰かに影響されるのでもなく、自分の人生を歩み、大谷選手を超えるような存在になる。それが最終的な目標です」
(取材・構成=杉田帆崇/日刊ゲンダイ)


プロバイダならOCN















