今秋のドラフトを巡って、巨人内部が紛糾しているという。

 これまで、1位候補の筆頭は岩手・大船渡の佐々木朗希(3年)で一致していた。特にスカウト歴27年、経験と実績豊富な長谷川国利スカウト部長(57)がゾッコンで、佐々木が4月の高校日本代表合宿で163キロをマークして以降、「今までのスカウト人生の中でもこんな投手は初めて」と最大級の賛辞を並べてきた。本紙にも、

「ポテンシャルの高さはダントツ。何がいいって全部です。球は速いし、変化球もいい。身長も高い(190センチ)しね。投げるだけじゃなくて、足も速い。50メートルを5秒台で走る身体能力の高さ。評価していない人はいないでしょう。いずれは菅野のようなエースに? いやいや、智之の高校時代(東海大相模)と比べたら雲泥の差。10対1ですよ。次元が違う」

 と、興奮した口調で言っていた。

 スカウト会議ではすでに1位候補を10人に絞り込んでいるが、佐々木は「特A」の評価。1位指名は揺るがない――はずだった。

 巨人OBが言う。

「そこへ、今の夏の甲子園で奥川(恭伸=3年、石川・星稜)が知名度を上げた。いや、奥川はそもそも、佐々木と並ぶ高校球界『四天王』に数えられ、全12球団が1位候補に挙げている。もちろん、巨人の1位候補10人の中にもリストアップされる、ドラフトの目玉投手のひとりだ。巨人の言う知名度というのは、球界の中のものでなく、野球にそれほど関心のない人たちの間にも名前と顔が浸透する、全国的な知名度のこと。四天王で唯一、夏の甲子園に出てきて、初戦(旭川大高戦)を9奪三振の完封、救援登板を挟み、3回戦では強打の智弁和歌山を相手に延長14回をひとりで投げ抜き、23奪三振の1失点完投勝利を挙げた。18日の準々決勝は完全休養でマウンドには上がらなかったにもかかわらず、それでも翌日のスポーツ紙には1面で取り上げられた。これは、大きい。佐々木も高校球界のスターだが、奥川にはそこへさらに『甲子園の』という冠がつく。巨人が求めているのはまさに『甲子園のスター』だからね。佐々木だけが『特A』だった評価に、奥川が割って入ったと聞いている」

■コメントの熱量に変化

 夏の甲子園で出場校が出揃った12日、巨人の長谷川スカウト部長は複数のスポーツ紙に、「奥川はバランス、変化球の精度を含めてすべてが突出している。高校生の中にひとりだけ、プロか社会人の選手がいるみたいに感じる」と答えている。大会前に本紙に「奥川もいい投手ですよ。でも、佐々木はそういう次元じゃない。ここ何十年で一番の素材です」と話していた時とは、奥川に対する熱量が違ってきている印象である。

 すでに、日本ハムが1位指名を公言している佐々木の能力が、長谷川部長の言葉通り、ずばぬけているのは間違いない。しかし、悲願の甲子園に王手をかけた岩手大会決勝の登板を回避、4番打者としても試合にすら出なかったことで、当初から懸念されていた体力面の不安が、スカウトの間では改めてクローズアップされた。在阪球団の編成担当が、「3年後、いや、5年後に20勝するかもしれない佐々木と、高卒1年目から先発ローテーションに入って10勝前後を期待できる奥川、それをどう評価するか。これは球団によって分かれるところだと思う」と言うように、佐々木の1位指名から奥川への乗り換えを検討する球団が出始めているのは事実だ。

■吉田輝星回避の後悔

「これまで、どちらかといえば即戦力を重視してきた巨人が2017年には早実の清宮(幸太郎=現日本ハム)、昨年は大阪桐蔭の根尾(昂=現中日)を1位入札した。どちらも抽選で敗れたとはいえ、球団上層部が戦力としてはもちろん、興行的にも甲子園で活躍したスターを求めているからだと聞きます。人気面を考えると、甲子園で活躍したという付加価値が入団後のファンの支持に大きく影響するのは事実。甲子園を沸かせた看板選手といえば、あの松井秀喜が最後だ。昨年、根尾の外れ1位でなぜ、金足農の吉田(輝星=現日本ハム)に行かなかったのか、読売内部にはいまだに後悔と疑問の声があるそうです。佐々木にはない『甲子園のスター』という付加価値がついた奥川を推す声が、内部で大きくなりつつあるようです」(在京セ球団の編成幹部)

 19日に行われた中京学院大中京(岐阜)との準決勝では七回を投げて2安打10三振と零封し、チームも9−0の完勝。21日の決勝で履正社(大阪)と対戦する。

 奥川の魅力に巨人が揺れている。