熊本県勢として初めて賜杯を手にした力士となった。

 27日の千秋楽。初顔合わせにして優勝を左右する一番となったのが2敗の関脇正代(28)と3敗の新入幕・翔猿(28)の対戦だ。2敗で単独トップに立つ正代が勝てばそのまま優勝。翔猿が勝てば、結びの貴景勝次第で巴戦となっていた。

 正代は新鋭の突き押しで後退を余儀なくされるも、土俵を割らずに反撃。前に出るところをいなされて「あわや」の場面もあった。それでも慌てず、土俵際で翔猿の両腕を脇に抱えてひねり、執念の突き落とし。この瞬間、自身初の賜杯が決まった。

 優勝インタビューでは「信じられません」と、まだ実感が湧かない様子。「今までの相撲人生で一番緊張したかもしれない」と、飾らない言葉で心境を吐露した。

 直近の3場所は合計32勝。大関昇進は同33勝が目安とされるが、近年は星数と同じくらい内容や安定感を重視する傾向がある。打ち出し後は審判部が早速、八角理事長(元横綱北勝海)に昇進をはかる理事会の開催を要請すると、理事長もこれを了承。大関昇進は事実上決定といってもいいだろう。

■コロコロ優勝力士が変わる激戦は要するに…

 相撲評論家の中澤潔氏は「序盤からいい相撲を取っていると思っていましたが……」と、こう続ける。

「とにかく自分から前に前に出ようという相撲を最後まで貫き通したのは立派です。この日も翔猿に先手を取られましたが、冷静に対応していた。本人は緊張していたと話していましたが、そこは3月場所から関脇を維持している力士。どこか心にゆとりがあったのでしょう。千秋楽まで優勝争いを演じた翔猿も、よくやったと褒めてあげたい。ただ、土俵全体を見ると手放しに喜んでもいられません。今場所は『番付不在』。大関とか前頭とか番付上の地位に差はあっても、実態が伴っていなければ番付の意味はない」

 今場所だけでなく、ここ数年は中澤氏の言う「番付不在」の場所が少なくない。横綱以外の複数優勝は2018年7月場所と19年9月場所を制した御嶽海のみ。暇さえあれば横綱が休場しているというのに、頭ひとつ抜け出す力士がいない。横綱がいなければ優勝候補筆頭であるべき大関も、最後に優勝したのは17年1月場所の稀勢の里(現荒磯親方)。優勝争いが激化しているというよりは、むしろドングリの背比べなのだ。

「正代にしても、飛び抜けて強いわけではない。体力、技術ともに、今場所は他に並び立つ力士がいなかったということですから。特に初日から3連敗した朝乃山には、大関には大関の負け方というものがある、と言いたい。協会が率先して力士の育成方法を見直し、いい力士を育てようと角界が一丸になるべきです」(中澤氏)

「横綱ならとにかく出場を」

 本命不在の土俵が続けば続くほど、力士寿命が延びるのが横綱白鵬(35)だろう。横綱の地位を脅かす力士は皆無。今年3月場所のように、たまに出れば優勝できるのをいいことに、暇さえあれば休場しまくっている。

 優勝回数44回は歴代最多。勝つには勝つが、同時に素行不良で厳重注意の常連でもある。協会には白鵬の言動を非難する電話や投書が殺到しているし、角界の先輩諸氏も苦言を呈している。

 武蔵川親方(元横綱武蔵丸)が鶴竜と合わせて「横綱2人はもういつ引退してもいいよ。ケガをしたといっても言い訳にしか聞こえない」と突き放せば、この日、ABEMAで解説した、花田虎上氏(元横綱若乃花)も「横綱2人はとにかく出場して最後まで土俵を務めてほしい」と訴えていた。前出の中澤氏も「白鵬? とりあえず本場所に出てこないことには何も言えない。話すらできませんよ」と、半ば諦め気味だ。

 しかし、白鵬にとってはそれらも馬耳東風ではないか。協会から厳重注意を食らっても、平気の平左でまた説教を食らうことの繰り返し。結果を出しているのだから文句はないだろうと言わんばかりに言いたい放題、やりたい放題なのだ。

 新入幕の翔猿に、あわや賜杯を許しかねなかった今場所。大関以下、幕内力士がゴチャゴチャとドングリの背比べをしているのだから、自分は当分、安泰と白鵬の高笑いが聞こえてきそうだ。