<ニュースの教科書>

セ・パ両リーグの優勝チームが日本一をかけて戦う「日本シリーズ」が、始まりました。今年は巨人とソフトバンクの対戦です。さあ、強者はセかパか。覇者はセかパか。んっ? 両リーグのことを言うとき、いつもセが先になっていますね。「セ・パ両リーグ」とか「セ・パ交流戦」とか、常に「セ・パ」の順序で示され「パ・セ」と示されることはありません。これはルールでしょうか。強さや人気の順なのでしょうか。両リーグの歴史や相違点を探りながら「難問」解明に取り組んでみました。【玉置肇】

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実はこの「セ・パ」の呼称順番問題は、1度球界で取り沙汰されたことがありました。

1988年(昭63)ごろ。当時、パ・リーグ会長だった堀新助さんが、記者たちとの雑談の中で、ふいに切り出しました。

「ところで、君たちは『セ・パ』とは言うが、『パ・セ』と言うのを聞いたことがない。これは規則か何かで決まっているの?」。いつもいつもセ・リーグの後に位置付けられる当該リーグとすれば、いささか面白くなかったのかもしれません。

最古参のH記者が、こう答えました。「会長、それはアルファベットの順番のようですよ」。

セ・リーグは、正式にはセントラル・リーグ(Central League)。パ・リーグは、パシフィック・リーグ(Pacific League)です。その頭文字の「C」と「P」をABC順で言うと、「C」の方が先に発音されるから、というのがベテラン記者の見解でした。

あくまでアルファベット順は「仮説」の1つであり、本当のところはわかりません。プロ野球界の「憲法」に当たる「野球協約」にも、記述はありません。ただ、プロ野球の成り立ちを振り返れば、「セ・パ」の呼称が、定着していく過程を見ることができます。

時は、49年にさかのぼります。プロ野球はそれまで8球団による「1リーグ制」で運営されていましたが、この年いくつかの球団が新たに参加を求めて来ました。その1つが「毎日オリオンズ(現千葉ロッテマリーンズ)」でした。ところが、同球団の参加をめぐって意見が分かれ、リーグが分裂。現在の「2リーグ制」のきっかけとなったのです。

このとき新球団の参加に反対し、リーグ再編に動いたのが後のセ・リーグでした。リーグの名前を「われらこそ中心的存在の本流リーグ」という意味合いから「セントラル」と命名しました。一方、新規参加に賛成したのが後のパ・リーグであり、「太平洋を越えた、国際的視野に立つリーグ」という意味合いから「パシフィック」と名付けられました。セ・リーグが2リーグ制への移行を先行したことが、「セ・パ」の呼称の順番に影響したきっかけだったと言えなくもありません。

その後も、パ・リーグは「セ前パ後」の呼称関係を強いられます。人気のバロメーターを示す入場者数とテレビ中継の露出度でセ・リーグにはかなわない時期が続いたのです。

観客動員数では、セが79年に1000万人を突破したのに対し、パがその大台に到達したのは、その18年後、97年(平9)のことでした。テレビ中継されるのも、「V9」に挑んだ巨人中心のセ・リーグのカードばかりで、パ・リーグ人気は後れを取っていたのです。こうした関係が、そのまま呼称順番の定着につながったといえます。

これに危機感を抱いたパ・リーグは、自助努力に励みます。指名打者(DH)制や予告先発の採用で観客動員増につなげました。さらに、福岡、北海道、仙台など地方への本拠地移転により、地元に密着した球団経営に取り組み、チーム強化につなげることに成功したのです。これにより、1試合平均で80年代半ばに最大1万7000人ほどあったセ・リーグとの入場者数の差は、11年に最少の4600人あまりまで詰めることができました。

チーム的にも個性的なスター選手が相次いで出現し、日本シリーズは13年以降、パのチームが7連覇中。交流戦はセの優勝3回に対し、パは12回と圧倒しています。テレビ中継でも、パ・リーグのカードが多く視聴できるようになりました。過去には「人気のセ、実力のパ」と形容された時期もありました。現在でも観客動員数でまだまだセ・リーグに及ばないパ・リーグですが、人気でも実力でも勢いと伸びをみせています。

「セ・パ」は、もちろん人気や実力差の順ではありません。耳や目に慣れ親しんだ語呂の響きも手伝って、両リーグがセットになった一対の「単語」として、捉えればいいのだと思います。

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■日刊スポーツも「セ・パ」で統一   

日本のプロ野球を運営するのが日本野球機構(NPB)であり、それを構成するのがセントラル野球連盟(セ・リーグ)とパシフィック野球連盟(パ・リーグ)です。セは巨人、東京ヤクルト、横浜DeNA、中日、阪神、広島。パは北海道日本ハム、東北楽天、埼玉西武、千葉ロッテ、オリックス、福岡ソフトバンクの各6球団から成ります。両リーグの最高責任者がコミッショナー(現在は斉藤惇=あつし=さん)です。08年まではコミッショナーに加え、セ、パ両リーグに設けられた会長との「3人体制」でした。

両リーグの違いは、指名打者(DH)制の有無。75年から観客増を狙ったパ・リーグで導入されました。投手の代わりに打席に立つ野手を加え10人で戦うシステム。投手は投球に専念でき、指名打者は守備に就かず打撃に専念できます。

日刊スポーツの紙面でも、両リーグの順位表、打撃・投手成績などを掲載するときはセ・パの順となっています。紙面を構成する担当者は「昔は巨人戦中心の記事が多かった名残から、セが先になったのでは? それに毎日同じ場所に固定したほうが、読者の方が見やすいからでしょう」。

◆玉置肇(たまき・はじむ) 1983年入社以来20年以上、主にプロ野球の取材にかかわる。94年には長嶋巨人の「10・8」最終決戦を取材。担当したプロ球団は、巨人7年、横浜大洋(現DeNA)3年、3局(セ、パ両リーグとコミッショナー事務局)3年。デスク9年。個人的に最もインパクトの大きかったプロ選手は元巨人の江川卓投手。