次世代型の電動車いすを手掛けるWHILL(横浜市)は、2012年の設立直後から世界に照準を合わせていた。現在展開する12カ国・地域では人材を主にローカル採用し、北米とアジア太平洋は現地法人トップも担当地域をよく知る外国人だ。「現地には現地のルールがある」。最高経営責任者(CEO)の杉江理氏は創業前に世界各地を放浪してこう確信し、現場のリアリティーを事業の軸に据えている。

WHILLは自社製品を米国、カナダ、英国、フランスなど、世界各地で販売・レンタルしている。海外展開にあたっては、各地域のニーズや慣習を熟知する人を現地で積極的に採用し、幹部登用も進めてきた。北米とアジア太平洋を統括するトップにそれぞれ現地の人材を置いている。アジア太平洋地域ではスタッフのほとんどが現地採用だ。

品質やブランドイメージは本社を中心に厳格に管理して統一する一方で、地域ごとの特性に応じた事業展開を重視している。杉江氏は「今後はさらにローカル採用やローカルルール重視にかじを切る方針」だという。

「場所が違えば考え方、習慣が全く違う。それを尊重して考えている」。ローカル重視の背景にある杉江氏の理念は、日産自動車のデザイナーを辞めて中国に渡り、その後、世界を放浪した経験に根差している。

当時、特段の当てもなく旅した先は、ラオス、ボリビア、パプアニューギニア、ウズベキスタン。選んだ基準は「世界一標高の高い空港があるボリビア」など、日本と環境が全く異なる極限の地であることだ。滞在中はできる限り現地の生活に合わせた。そこで見えてきたのは、旅番組などでは分からない、その土地独自の暮らしぶりや思考だった。

例えば、美しい自然で知られるパプアニューギニア。現地に行くと、旧日本軍の砲弾や戦車の残骸など、第2次世界大戦の爪痕がいまだにあちこちに残っている。外国人がほとんどいない地域では「白人」と呼ばれ、マーケットに行くと「気を付けろ。ここにいる全員がお前を狙っているぞ」と注意を促された。

治安の悪い地域も珍しくなかったが、気さくに話しかけてきて仲良くなり、家に泊めてくれる人もいた。案内された先は、屋根があるだけで、窓も何もない場所だったこともある。常識が日々、覆されるような毎日は「全然苦にならなかった」。かえって「『現地には現地のルールがある』を大前提に考える」という意識が芽生えた。