新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、人の働き方が大きく変わってきた。在宅勤務などテレワークを今後も継続したいと考えるビジネスパーソンは多い。しかし、実際の運用では課題が山積している。特に中小企業では課題の多さにテレワーク導入に二の足を踏む企業もある。テレワークの法的問題に詳しい末啓一郎弁護士(ブレークモア法律事務所パートナー)は「中小経営者はテレワークのメリット・デメリットを把握して法的トラブルを回避する準備をすべきだ」と説く。もともとテレワーク導入は、人材確保などの面で中小企業にメリットが多いと言われてきた。就業規則、運用経費、労働時間、賃金体系、派遣社員といった5つのポイントについて末弁護士に聞いた。

■テレワークと通常勤務 就業規則に違いは?

末啓一郎(すえ・けいいちろう)氏。 1984年弁護士登録。経産省勤務などを経てブレークモア法律事務所パートナー、一橋大ロースクール講師、米ニューヨーク州弁護士。著書に『テレワーク導入の法的アプローチ』(経団連出版)。

末弁護士はテレワークを「本来の事業場から離れた場所での勤務」と規定し、法規制において通常勤務と本質的な違いはないと説明する。新型コロナの感染拡大期に十分な準備もなく、拙速に在宅勤務態勢を実施した中小企業は少なくない。労働基準法89条は、労働者を常時10人以上雇用している会社の場合は就業規則の作成と届け出を原則として義務付けているが、テレワーク開始時点で記載されていなくても、のちのち法的トラブルはないのか。

末氏は「就業場所についての指示だけならば、通常の業務指示として対応できる」と説く。また就業規則の変更をするにしても、労働者にとって有利なものならば一方的に変更できるという。逆に不利益となる場合は、労働契約法10条により労働者からの個別の同意か変更に合理性があることが必要だ(※1)。

■自宅のテレワーク環境は会社負担か?

次に、自宅にテレワーク環境を整える際の費用を負担するのは会社か社員か、という問題だ。実際に体験すると、会社から貸与されたパソコンや通信ツールだけでは足りないことに気づく。自然に専用の机、イス、クッション、照明などをそろえたくなるだろう。実際、外出自粛中には家具メーカーの店舗へ多くの購入客が集まり「3密」状態だったというケースもあった。日本テレワーク協会(東京・千代田)はホームページで、採光やグレア(まぶしさ)防止、騒音防止にも配慮を促している。

具体的に購入を命じた場合を除いて、こうした関連費用を会社側が提供する法的な義務は基本的にはない。しかし末氏は「会社側の負担とする制度を設けるなど配慮して、テレワークで効果的にできる業務を増加することは、社員のモチベーションを高め、優秀な人材を確保することにつなげられる」と唱える。特に現在は事業継続性の可否が、企業の信用性に直結している。金融機関の融資判断でも重視され、具体的な資金繰りに大きな影響を与えている。社員をつなぎ留めておくことは企業の命運にかかわる課題になってきている。

■労働時間どう把握?

末氏が強調するのは、テレワーク時の労働時間に関して適切なチェックを欠かさないことの大切さだ。「働き方関連法により、労働安全衛生法66条8の3の規定が新設されたことは見逃せない」と指摘する。これまでも、賃金支払いの関係で把握義務はあった。新たに管理職や裁量労働制などの場合も、健康管理の観点から社員の労働時間の状況の把握を義務付けている。法律の定めによる以上に、安全配慮義務などの点から重要なポイントになっていると、末氏は指摘する。