先の東京オリンピックで蚊をはじめとする虫が媒介する感染症の予防面をサポートしたのは、「ごきぶりホイホイ」「アースレッド」などで知られるアース製薬だ。液体蚊取りでは同社の「アースノーマット」シリーズがシェア9割を握る。今では蚊取り線香や電子マット式に取って代わった液体蚊取りだが、蚊取り器の機能や蚊の生態を知れば、もっと上手に夏の難敵とつきあいやすくなる。

アースノーマットの長期連続使用を実現、シェア9割に(上)

液体蚊取りは薬液ボトルをセットして、スイッチを入れれば、自動的に薬剤の蒸散が始まる。アース製薬がとりわけ苦心したのは、「どうやって安定的に効き目を保つかだった」と、「虫ケア用品」のシニアブランドマネージャーを務める渡辺優一氏は語る。試行錯誤の末、長時間の効果が可能になったおかげで、「実は窓を開けても、効力が保たれるようになった。蚊の侵入を防ぐ効果も生まれた」という。

感染症対策の一環として、定期的な換気が推奨されている。しかし、窓を開ければ、「せっかく室内にため込んだ蚊に効く成分が薄まってしまう」と、素人考えで心配しがちだ。しかし、同社の研究結果によれば、液体蚊取りでは薬剤が蒸散され続けているので、「窓が開いていても、効き目が安定的に保たれる」(渡辺氏)という。しかも、見えない壁のように侵入を阻むので、「室内に蚊が増えるリスクも小さい」のだそうだ。

「アースノーマット」が圧倒的なシェアを得るまでには、こうした研究データに基づいて、商品の強みをアピールしつつ、消費者のニーズに寄り添うバリエーションを増やしてきた積み重ねがある。開発力の源泉は、大量の蚊を研究施設内で飼育していることだ。世の中では嫌われ者の蚊も、ここでは貴重なデータを提供してくれる「協力者」。一般家庭の間取りを模した試験室の中で、試作品の改良に研究員ともども奮闘してくれている。

研究施設内での蚊の飼育

長年の飼育を通して、蚊の様々な生態が分かってきた。それらの知見も同社は公開している。蚊に刺されにくくするための知恵を持ってもらえれば、消費者の蚊対策に役立つからだ。「身近な生き物でも、知らないことは多いもの。正しい知識がリスクを遠ざける」(渡辺氏)。たとえば、「汗をたくさんかく人は刺されやすい」「黒い服は蚊を呼ぶ」「蚊は二酸化炭素をかぎつける」などだ。アルコールを飲んでいる人も刺されやすいという。

習性から考えると、黒い服は避けるほうが無難だろう。二酸化炭素をたくさん発散するような大声での会話・歓声も蚊を呼び寄せかねない。皮膚を露出させない服を選ぶのは、蚊を防ぐ第一歩だ。網戸を閉めているのに、蚊が入り込んでしまうのは、「網戸の周辺にわずかな隙間があるから」(渡辺氏)。ドアの開け閉めの際に忍び込んでくることも。ただ、完全にはブロックしにくいから、「蚊取り器の成分を室内に拡散して、侵入を食い止めるのが賢明」という。

「血を吸うのはメスだけ」というのは、割とよく知られた事実だろう。卵を産むためにタンパク質が必要だからだ。刺す際には細い6本の針を操り、抜き差しを素早く繰り返す。これが刺されてもすぐには気づきにくい理由だという。人を刺す時間帯は種類で異なり、アカイエカは夕方から夜にかけて、ヒトスジシマカ(通称・ヤブ蚊)は昼から夕方にかけてだ。飛ぶ速さは時速約8キロメートルと、それほど素早くはないが、暗い寝室では羽音を聞いて探しても、なかなかつかまえにくい。「薬剤成分で空間を満たす蚊取り器に任せるほうが現実的」といえる理由だ。