タクシー車内の言動は意外に同乗者からみられている(写真はイメージ) =PIXTA

たった2年ばかりの間に、たくさんの「対話空間」が奪われた。カフェやレストランはもとより、オフィスでの立ち話やエレベーター内での雑談も減った。今では考えにくいが、かつてタクシーの車内も豊かなおしゃべり空間だった。しかし、車内での振る舞いは意外な素顔や本性もさらしてしまうものだ。今回は7つの注意点から、タクシー車内での所作やしゃべりを考えてみたい。

声を出さずに食べる「黙食」が求められるようになり、レストランは殺風景になった。同じようにタクシーでも「黙乗」がマナーとなったようで、運転手さんに話しかけるのは、かつて以上にためらわれる。しかし、最低限の意思表示は必要で、その最たるものが「目的地の指示」だ。行き先を示すだけの簡単な対話だが、乗客によってその伝え方にはかなり差がある。

「正解」があるわけではない。だから、単に「(東京都中央区)銀座の(百貨店の)三越」と建物の名前を端的に告げるだけでも用は足りる。だが、ややつっけんどんな印象を与えがちだ。

金を払う側なのだから、丁寧な物腰を期待されたくないと考える人もいるだろう。だが、「金を払う=ぞんざいで構わない」というのは、いささか対人コミュニケーションとしては丁寧さを欠くようにも思える。対人での注文や支払いも一種のコミュニケーションであり、タッチパネルでの「操作」とは異なる。つまり、言葉選びや表情次第でお互いが心地よくなり得る。その一手間を惜しむかどうかを、同乗者は見ている。

・ポイント1 「運転手さん」と呼びかける

最低限の情報が「銀座の三越」だとするなら、どう言葉を補えばよいか。最初に付け加えたいのは、「運転手さん」という呼びかけだろう。対話は誰と誰が向き合っているかを互いに認知するところから始まる。相手を特定しないで発せられた言葉は、捕り手のいないキャッチボールのようなものだ。勝手にしゃべり出されても、準備のできていない受け側が困る。

だから、まず発したい言葉は「運転手さん」になる。相手の耳を「受信モード」に切り替える働きを持つ「スイッチ語」だからだ。これで用件を聞いてもらえる関係には入れる。

できれば、モードが切り替わるまでの時間を用意する意味で一拍、間を置こう。矢継ぎ早に繰り出された言葉は相手を戸惑わせる。「聞くモードに入りましたね。はい、では次に用件を述べますよ」といった具合に、相手の気持ちが落ち着く余裕を提供するほうが話がスムーズに運ぶ。あえて、冒頭に「えーと、運転手さん」と、前置き語を言い添えるのも、運転移集中している相手に呼び掛けるうえでは意味がある。

・ポイント2 目的地の告げ方

次に本題だ。「銀座の三越」とぶっきらぼうに固有名詞を投げつけるのは避けて、「銀座の三越までお願いします」「〜までやってくれますか」などと、文章の形で伝えよう。名詞投げつけ式は無愛想なだけではなく、どこか命令調にも聞こえる点で、聞き手の気分を害しやすい。軍隊で「突撃」「敬礼」などと端的に指示されているような気分になりがちだ。いわゆる「上から目線」のニュアンスを帯びる。

別段、こびる必要はないが、「お願いします」と言い添えるのは、丁寧すぎるレベルでもあるまい。英語でも「please」を添えるのは当たり前の物言いと聞く。同乗者にとっても穏やかな受け答えと映るはずだ。

運転手さんに「お願いします」と言うのをためらう心理には、「お客様は神様」的な自意識がうかがえる。しかし、威張りやすい場面ではとりあえず威張っておくみたいな振る舞いはあまり見え具合がよろしくない。尊大に映るうえ、相手を見て態度を変えるキャラクターという印象も与えそうだ。一緒に乗った人がこういう態度を見ると、人柄に疑念を持たれかねない。