■灘高時代に国際生物オリンピック銀賞

MIT時代に電子工学を専攻した前田さん

大阪府南部の和泉市出身。神戸の灘中に通学するのは片道1時間40分もかかる。父親から「灘なんて、そんな無理せんでええで」といわれたが、進学塾に通い、灘中受験を突破した。陸上部で汗をかきながら、本をむさぼり読んで長い通学時間を過ごした。電車の中でダーウィンの「進化論」に感銘を受け、生物学が好きになった。全国の高校生が理系分野で競う「科学の甲子園」全国大会で準優勝したり、高2の時には国際生物オリンピックで銀賞を受賞したりした。

文化祭の委員も務めるなどイベント開催にも熱心に取り組んだ。「灘にはガリ勉タイプは少ない。探究心が旺盛で、個性的で面白い男ばかり」。興味の赴くままに好きなことを徹底的にやる一方で、大事な授業もさぼる「奇人変人の異才集団」と指摘する人もいる。

現在の灘高生は東大志向という以上に医学部志向だ。前田さんも当初、医師になろうかと考えたが、いまひとつ興味がわかない。そんなとき、尊敬する先輩の楠正宏さんから「前田なら海外行けるで」と声をかけられた。

楠さんは高校卒業後に米国のトップスクール、ハーバード大学に進学した。「格好ええな」と憧れたが、前田さんは帰国子女ではない。両親に相談すると、「英語ができず、落ちこぼれたら大変や。東大も受けたら」と諭された。親は地元で自営業を営んでいるが、資産家というわけではない。米有名私大の学費は日本円で年間500万〜600万円と高額。生活費を含めると、相当のお金が必要だ。

ただ、世界トップクラスの理系大学、MITは奨学金制度が充実していた。学生の家庭の所得に応じて奨学金が決まり、学費と寮費の自己負担額が軽減される仕組み。MITの合格が決まると同時に自己負担額が提示された。

■MITと奨学金増額交渉 2倍に

「まだ、うちの負担額が重いな」と思った前田さんはMITと奨学金増額交渉に臨んだ。10通以上のメールをやり取りし、「奨学金は約2倍になり、結局、東大に通うのと同じくらいの負担額に落ち着いた」と話す。以前、灘中学・高校の和田孫博校長は「関西人だけあって灘の生徒はお金に敏感。そこは関東の生徒とは違う」と話していたが、高校生と思えない経済観念と交渉力だ。東大理科2類にも合格したが、第1志望のMITに進学した。ちなみに開成高校(東京・荒川)からハーバード大に進学したAI起業家の大柴行人さんとは高校時代からの知り合いで、海外留学の情報をやり取りした仲間だ。