■店員を戸惑わせる「小銭モンスター」

「困った珍客」その3

コンビニを「小銭処理場」と考える客がいる。

スマートフォン決済などキャッシュレス化が進んだとはいえ、いまだに「支払いは現金で」という店も健在だ。現金払いを続けると、自然と小銭が財布にたまってくる。放っておくと、小銭入れはぱんぱんに。自宅の鍵置きトレーも小銭であふれ、収拾が付かなくなりがちだ。

たまりすぎた小銭に追い詰められてか、コンビニのレジで支払額を告げられると、レジ前のカウンターに釣り銭をジャラジャラとまき散らすようにして、「お兄さん、数えてくれる?」という高齢客がいるそうだ。

店員「人生の大先輩なら我慢もできます。でも、先日やってきたバリバリのビジネスマンらしき男性には正直、ムッとしました」

彼は店に入るなり、麦茶とバナナとパンをカゴに入れ、レジに向かってきたという。

店員「『440円になります』と私が告げると、彼は黙って千円札を出した」

梶原「うん、うん」

店員「『千円、お預かりします!』と言いながら、すかさずレジを打ちました。画面に560円のおつり金額が表示され、こっちはもう客に渡す560円を手に握って待ってるわけです。『袋詰めして560円渡せば、これで完了だ!』って」

梶原「あと一歩か」

店員「ところが、男は黙って、1円、5円の混じった小銭をレジカウンターにボロボロっと出してきた。『え、千円からじゃないんだ』と、一瞬、声を失った私に、彼が怒声を浴びせかけたんです。『お前ら、釣りの計算もできないレベルか、はあ?』」

千円札から払いたかったのか、小銭で払いたかったのかさえ、はっきりしない挙動だった。加えて、どんな理由で腹を立てているのかも読み取れないという、まさに意味不明の行動だ。千円札に40円を小銭で足して、ちょうど600円のおつりが欲しかったのか。でも、カウンターに並べた小銭は40円ではない。もしかしたら「440円を数えて、追加分として受け取れ」という、店員への暗黙の要求だったのかもしれないが、男はそんなことは一言も発していない。その場合、最初に出した千円札が宙に浮く。「小銭を見て、空気を読め」というのは、いくらなんでもむちゃな話だ。

店員が戸惑っていると、男は「チェッ」と舌打ちした後、「じゃ、いいや、その千円で」と、小銭を戻し、560円のつりを持って店を出たのだそうだ。

「困った珍客」を相手に奮闘するコンビニ関係者にエールを送りたい。

※「梶原しげるの「しゃべりテク」は毎月第2、4木曜掲載です。次回は2020年4月23日の予定です。

梶原しげる 1950年生まれ。早稲田大学卒業後、文化放送のアナウンサーに。92年からフリー。司会業を中心に活躍中。東京成徳大学客員教授(心理学修士)。「日本語検定」審議委員。著書に「すべらない敬語」「まずは『ドジな話』をしなさい」など。