■高い塔を建て、てっぺんから眺める

「できる理由を探す」文化が根づいた宇宙科学研究所で育ち、失敗の経験が新たな挑戦を成功に導いた。

大切にしている言葉に「高い塔を建ててみなければ、新たな水平線は見えてこない」があります。小惑星まで往復飛行してサンプルを持ちかえるはやぶさの挑戦は、米航空宇宙局(NASA)でさえリスクが高いと考えたプロジェクトでした。しかし不完全でも高い塔を建てててっぺんから眺めることで、初めて新しいものが見えてきます。

日本人は勤勉で決まったことはよくできます。しかし決まっていることはすべて過去のものです。よく「100点満点」という言い方をしますが、これはそこまで行ったら終わりという到達点の文化です。到達点が天井になり考えが有限になります。これまでの技術を完璧にできているかだけ見ていても、新しいページは開けません。完璧を目指すのではなく、新しい科学や技術をどれだけ開拓していけるかが目指すべきところだと思います。「やったことがあるか」ではなく「やったことはないが、できる」という自信を持たせることが大切です。

そのためには経験を積むことが欠かせません。私自身、はやぶさまでのプロジェクトでいくつもの失敗を経験しています。最も印象に残っているのは、M3SIIロケット8号機で、国際プロジェクトのカプセルを打ち上げたときでした。打ち上げにはなんとか成功したのですが、すぐに行方不明になりました。後になって3段目より上が、それまでより少し重くなったために異常な振動が起きたことが原因と分かりましたが、まったく予想外でした。結果が出ると誰にでも分かることでも、事前には気づかない。そうしたことの恐ろしさは体験しないと分かりません。

宇宙ビジネスが注目されていますが、日本の宇宙ベンチャーは普通のことをやり過ぎているように見えます。ベンチャーをやるのなら、新しい技術や考え方、イノベーションがないとだめです。私もJAXA発ベンチャーを手掛けていますが、全く新しい機構の衛星用エンジンを開発したいと取り組んでいます。

日本は今、経済成長が止まり閉塞感に苦しんでいます。しかし苦しいときにアイデアが出て、課題を解決することもできる。問題が山積している日本は、逆にチャンスと考えて若い人にエネルギーを発揮してほしいと思います。

川口淳一郎
かわぐち・じゅんいちろう 宇宙航空研究開発機構(JAXA)元シニアフェロー。青森県生まれ。1983年東大大学院工学系研究科博士課程修了、旧文部省宇宙科学研究所助手。2000年同教授。ハレー彗星探査試験機「さきがけ」をはじめ数多くの探査機に参加し、小惑星探査機「はやぶさ」のプロジェクトマネージャを務めた。

[日経産業新聞 2020年4月22日付]