井上芳雄です。ミュージカル『ナイツ・テイル−騎士物語−』が9月13日、大阪・梅田芸術劇場メインホールで開幕しました。新型コロナウイルスの影響で、初日の予定だった9月7日から12日までの公演が中止となったので、6日遅れでの開幕です。無事に幕が開けられたことに感謝すると同時に、1回1回の公演を大事に日々を積み重ねていきたいとあらためて思いました。

『ナイツ・テイル−騎士物語−』の舞台。9月30日まで大阪・梅田芸術劇場メインホールで上演中。10月6日〜11月7日東京・帝国劇場、11月13日〜29日福岡・博多座で上演(写真提供:東宝演劇部)

『ナイツ・テイル』は、シェイクスピア最後の作品『二人の貴公子』(共作・ジョン・フレッチャー)をミュージカル化したオリジナル作品。従兄弟同士でライバルでもある2人の騎士が、同じ女性を愛したことで、愛と名誉と生死をかけて決闘を挑むことになるという話です。堂本光一君と僕が騎士を演じて、2018年に帝国劇場で世界初演されました。今回は3年ぶりの再演となります。

初日はいつも緊張しますが、今回はそれだけではなく、いろんな思いが入り交じりました。演劇界全体を見ても、やはり新型コロナの影響で公演が思うようにできないカンパニーがたくさんあります。そういうカンパニーのみんなの気持ちも考えたり、直前まで自分たちも本当にできるのか不安になったりもしました。堂本光一君もカーテンコールで言っていたように、中止になった公演を楽しみにしていたお客さまには本当に申し訳ないですし、それだけに舞台に立って大きな拍手や反応をいただいたときは感動もしました。

お客さまも、最初はかたずをのんで見守るという感じでした。緊張されていたのかもしれません。でもすぐに大きな拍手が起こって、笑い声もたくさん聞こえてきました。僕も、久しぶりに『ナイツ・テイル』の舞台に立って、大きなミュージカルってなんて楽しいんだろうと思ったし、なにより客席の反応がうれしかった。うれしすぎて、セリフを忘れてしまったほどです(笑)。それくらいお客さまのボルテージがどんどん上がってきて、最後のカーテンコールからあいさつまで、楽しんでくださっているのが伝わってきました。劇場でお芝居をやれるのって、こんなに幸せで、楽しいことなんだ。この1年半、毎回思っていますが、今回もまたそう感じました。

公演中止の間、ホテルで待機していたとき、オンラインミーティングで脚本・演出のジョン・ケアードに言われて、本当にそうだと思った言葉があります。「たかがお芝居なんだ」。英語ではプレイ(遊び)という言葉が演劇を表します。「プレイなんだから、命を危険にさらしたり、シリアスになってやるものじゃないんだよ」。ジョンは以前からそう言っていて、今回もまたそれを話してくれて、すごく納得しました。みんな何か新しいワクワクすることを体験したくて、その物語や空間や時間を一緒に楽しもうと、劇場に集まって来ている。「たかが演劇、たかがお芝居なんだ」。そう思うと、1週間も公演できないとかシリアスに考え過ぎる必要はないのかもしれないと、救われたような気持ちになりました。だから初日も遊びに出る感覚で、状況は大変だけど、仲間が集まってみんなに会いに行くみたいな気持ちでした。そして、本気で遊びたい。ジョンの言葉は、常に胸に刻んでいます。

ジョンはロイヤル・シェイクスピア・カンパニーの名誉アソシエイト・ディレクターで、『レ・ミゼラブル』初演を手がけた世界的な演出家です。いつも冷静で、ひょうひょうとしているのは変わりません。そんな人柄のおかげでしょうか、キャストやスタッフもそれほどピリピリしている感じはなく、ジョークを言いながら開幕を待っていました。