公的保険の下でゲノムの検査を受けるのは、標準的な治療を一通り終えた患者がほとんどだ。検査する遺伝子の数が少ない上、未承認や保険適用外の薬の中から次の一手を探すため、薬が見つかる人は限られる。

がん遺伝子外来で医師に問診を受けるがん患者(右)(東京都新宿区の慶応義塾大学病院)

慶大病院のプレシジョン・エクソーム検査は、治療薬を見つける確率を上げることを目指す。検査を始めた3月から12月中旬までに60人強の患者が検査を受けた。公的保険の対象外で、約100万円を患者が負担する。同病院のほか、聖マリアンナ医科大学病院や浜松医療センターなど、計5カ所の病院で検査を受けられる。

手術などで切除したがんの組織と血液中の正常な白血球からDNAを抽出して、がんだけが持つ遺伝子の変化を見つける。慶大の西原広史教授は「多数の遺伝子の変化を調べるため、治療に至る確率を上げられる」と期待する。

実際のDNAの抽出や解析は三菱スペース・ソフトウエア(東京・港)が専用装置で実施する。医師らは解析結果を基に、最適の治療法を患者に示し、治療を始める。DNAの抽出から患者への説明までに6週間かかるが、「今後、期間を半分程度まで縮めるめどがついた」(同社)という。

まだ治療に至った確率は集計していないが、「投薬につながる可能性がある遺伝子の変化が8割弱の患者で見つかった。従来の2倍程度だ」と西原教授は手応えを話す。

他にも、保険のゲノム検査を補う検査法が登場しそうだ。

国立がん研究センター東病院(千葉県柏市)などは、患者のゲノムデータを使い、既存薬が使えるがんを増やす臨床研究や医師主導の臨床試験(治験)を急ピッチで進めている。がん細胞から出て血液中を漂うDNAの74個の遺伝子を調べる米ガーダントヘルス社の検査技術を活用。大腸や胃、食道がんなどの2千人超の患者で臨床研究を進めている。今後、計4千人まで調べる。

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■民間保険 整備進む 高額費用をカバー

慶大の検査は患者が約100万円の費用を負担する自由診療だ。検査で治療薬が見つかった場合も、公的保険の枠外で薬を使えば高額の薬代がかかる。そのままでは費用がかさみ、検査や治療が難しくなる。そこで出費をカバーする民間保険の整備が進んできた。

セコム損害保険はがんの自由診療向けに「メディコム」という保険商品を販売している。外来診療の場合には治療費を最大で1千万円まで補償する。入院時の治療費は無制限で補償する。慶大の検査の代金も補償の対象になる。

この保険に新たに加入できるのは6〜74歳で、保険の期間は5年間。90歳まで自動的に更新される。毎月支払う保険料は掛け捨て方式だ。がんになる前に、自身の健康状態を告知する書類を提出して加入する。

鈴木彰・メディコム業務推進部長は「最近は引き合いも増えている」と話す。他にもがんの自由診療向けの保険商品を扱う企業が出てきた。公的保険や民間保険を組み合わせ、様々ながんゲノム検査を使い分ける必要が出てきた。

(草塩拓郎)

[日本経済新聞朝刊2020年1月13日付]