人は通常、鼻で呼吸をするが、口で呼吸をしてしまうこともある。暑い時期にマスクを着けるとなおのこと。口呼吸が習慣になれば、感染症のリスクを高めるなど体調不良を引き起こす。予防を心がけよう。

「人間の鼻は優れた加温・加湿機能が備わった空気清浄機に例えられる」。こう話すのは帝京大学ちば総合医療センター(千葉県市原市)耳鼻咽喉科の鈴木雅明教授だ。

鼻から吸った空気は鼻の奥の鼻腔(びくう)を通る時に温められ、加湿されてから肺に送られる。その間には鼻毛や粘膜の表面に生えた線毛、粘液によって、ほこり、細菌やウイルスといった異物が取り除かれる。鼻呼吸には、こうした防御機能が働いている。

口呼吸では、汚れたままの空気が加温・加湿されることなく気道を通って肺に直接送られるため、「風邪などの感染症にかかりやすくなってしまう」(鈴木教授)。

口呼吸が及ぼす悪影響は他にもある。みらいクリニック(福岡市)の今井一彰院長によると、口呼吸によって慢性の扁桃炎(へんとうえん)になれば免疫に異常が起きたり、口腔(こうくう)内細菌が増えることで誤えん性肺炎になりやすくなったりする。「口呼吸では二酸化炭素を多く吐き出す影響で、脳貧血や過呼吸、情動不安を起こすこともある」(今井院長)

鼻呼吸が口呼吸になる要因はいくつかある。例えば、鼻炎で鼻がつまりやすいなど鼻に問題があるほか、のどの奥の咽頭扁桃肥大や歯のかみ合わせの不調など口内に問題がある場合だ。こうしたケースでは、根本原因の治療が必要になる。

睡眠時も口呼吸になりやすい。口まわりなど筋肉が緩んで口が開くと舌根が沈下する。これによって、いびきをかいたり、呼吸が浅くなったり無呼吸が起こったりする。

鈴木教授が監修したウーマンウェルネス研究会の調査では、首都圏の20〜69歳の男女602人のうち、46%が就寝中の口呼吸を自覚していた。「起床時に口の中が乾燥している、のどが痛む、口臭が強いといった時には、口呼吸になっている可能性がある」(鈴木教授)

就寝中の口呼吸を防ぐには鼻の通りをよくした上で市販のマウステープを使うと有効だ。医療用のサージカルテープを使う場合は唾液ではがれないように口の両端にハの字に張っておくといい。

無意識に口呼吸が習慣になっていることも多い。「口呼吸のほうが気道の空気抵抗が少なく、呼吸が楽に感じられる」(今井院長)ためだ。

今井院長は、新型コロナウイルスの感染予防のために、マスクを着用する時間が長くなっていることも、口呼吸の要因になると懸念している。暑さや息苦しさから口呼吸になりやすい時は、人との距離を取った上で適宜マスクを外して、鼻で呼吸をするように意識したい。

マスクをしていると人目を意識しなくなり表情をつくる機会が減る。「口まわりの筋力が衰え口呼吸が慢性化しやすくなることも考えられる」と今井院長は指摘する。

口まわりの筋力は加齢でも衰える。口を閉じた時に舌の位置が下あごのほうに下がっている場合は、舌の筋力が弱っているサインで、口呼吸になりやすい。「舌は本来、上あごにベタッとつけているのが正しい位置。下がっている人は舌の運動で改善を」(今井院長)

舌の運動は、口を閉じて、唇と歯茎の間に舌を入れ、歯の表面をこするようにしてぐるっと回す。最初は左右5回ずつゆっくりと。慣れてきたら回数を増やし、スピードも速めていく。起床時や就寝前、マスクをつけている時にも、口呼吸の改善と予防を兼ねて実践するといいだろう。

(ライター 田村知子)

[NIKKEIプラス1 2020年8月29日付]