森喜朗前東京五輪・パラリンピック組織委員会会長の「女性蔑視」発言から辞任に至る騒動は、改めてこの国のダイバーシティーをめぐる課題を浮き彫りにした。

海外メディアは日本社会の女性差別を象徴する発言として報道した。一方、国内報道は当初反応が分かれた。新聞はおおむね批判的だったが、テレビのワイドショー番組などでは「高齢だから仕方ない」「功績は評価すべきだ」などの意見も散見した。

経済界からの反応もまちまちだった。経団連の中西宏明会長は森発言について「日本社会の本音が出た」「SNS(交流サイト)は恐ろしい」といった印象を語ったが、トヨタ自動車など五輪スポンサーは相次ぎ「自社の価値観と異なる」などと遺憾の意を示した。

これらグローバル企業ではジェンダー平等への配慮はもはやビジネスの「常識」となっている点や、消費者の不買運動警戒などが背景にあったと考えられる。

私見では、森氏発言に関する反応は女性差別意識のリトマス試験紙だ。旧来の「国内」で「高齢男性」中心の意思決定に違和感を持たない層ほど、擁護に回る傾向が顕著だったからだ。

つくづく永田町の時計は「世界標準」から大幅に遅れている。森氏発言に対し「女性理事を褒めている点は評価すべきだ」との意見も出たが、私見ではこの部分にこそ日本でダイバーシティーが進まない要因が集積している。

権力者が異質な他者を新規メンバーに受け入れるとき「彼ら(この場合女性)は一般的に望ましくない(話が長い)が、あなた(組織委員会の女性理事)はそうではない(権力者の意向を「わきまえて」いる)から認める」というのは、マイノリティーの「分断統治」話法に他ならない。

男性社会に順応し「男性並み」の特別待遇を認められた女性を、かつて南アフリカ共和国で行われたアパルトヘイト(人種隔離)における「名誉白人」になぞらえて「名誉男性」という。森発言は女性一般と一部の「名誉男性」を引き離し、後者のみを容認することで旧来の権力集団の均質性保持を志向するものだ。

森氏の後任は橋本聖子氏に決定した。大臣を辞任し自民党を離党しての就任だが、その選出過程は不透明だ。委員のお眼鏡にかなう「名誉男性」が他にいなかった、などという理由ではないことを心より祈る。

水無田気流
1970年生まれ。詩人。中原中也賞を受賞。「『居場所』のない男、『時間』がない女」(日本経済新聞出版社)を執筆し社会学者としても活躍。1児の母。

[日本経済新聞朝刊2021年3月8日付]