近年世界中で成長傾向にあるESG(環境・社会・企業統治)投資が、コロナ禍で更に急増している。2020年4〜6月期は、過去最高の約8兆円相当の資金が流入した。

財務情報に加え、ESGに配慮した投資に注目が集まる背景には環境などを含む社会全体への影響を包括的に勘案しなければ長期的な経済成長や投資利益は得られないとの認識がある。ESGに消極的な企業を空売りする手法のヘッジファンドも出始めている。

ESG投資は日本でも広がっている。環境に配慮した投資が特に注目されているが、ダイバーシティも重要な要素であることを忘れてはならない。多様な人材が活躍するための環境や企業文化を醸成しているか。短期的な経済効果は推計しにくいが、中長期的には企業価値を高め、社会全体の経済成長にも寄与するという認識は欧米の投資家の間では常識になりつつある。

海外の機関投資家が日本企業に対し、女性取締役の起用を求める動きも目立つ。女性取締役のいない企業に対しては、経営陣の取締役選任議案に反対する方針を表明する投資家も増えてきた。コロナ危機は世界経済の脆弱性をあぶり出したが、不透明な環境下でのかじ取りが迫られる中、均一的な価値観や視点しか持たない経営陣では、マネジメントリスクが高まり、危機管理能力も低下する。海外の投資家が要求しているのは、形式的な女性幹部の数ではなく、投資先企業の増益と長期的な株主利益の最大化である。

日本には日本の事情があり、このような“外圧”は歓迎できないとする見方も根強い。確かに、国は独自に多様性を促す取り組みを試みてきた。政府が2020年までに指導的地位の女性比率を30%にする目標を掲げたのは03年だった。15年には女性活躍推進法が成立した。しかし今、目標の半分も達成できず政府は旗を降ろしたかのようにさえ見える。

日本企業は今こそ、資本市場の声に耳を傾けるべきではないだろうか。長期的な企業価値を向上させるために女性取締役の起用を要求する投資家の“外圧”をうまく利用し、痛みを伴う改革を遂行する手がある。

逆に資本市場の警告を軽視すれば、世界の投資マネーが日本企業から去るだけでなく、多様性の欠如を理由に空売りの対象になるという悪夢のような展開も否定できない。

村上由美子 経済協力開発機構(OECD)東京センター所長。上智大学外国語学部卒、米スタンフォード大学修士課程修了、米ハーバード大経営学修士課程修了。国際連合、ゴールドマン・サックス証券などを経て2013年9月から現職。米国人の夫と3人の子どもの5人家族。著書に『武器としての人口減社会』がある。

[日本経済新聞朝刊2020年8月24日付]