新型コロナウイルス感染症拡大で、蓄積した疲労により「わけもなくイライラする」という人が増えています。イライラは、内側にたまった不安と疲労のしわざ。疲れてしまったんだ、と認め、今は体をいたわる時期かもしれません。元・陸上自衛隊心理教官で心理カウンセラーの下園壮太さんに解説してもらいました。

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私は東日本大震災の直後から全国を回り、カウンセリングを続けていたことがあります。当時、震災直後だけでなく半年、1年とたった頃に「イライラしている」人が増えていることに気づきました。震災のような大きな出来事があると、その影響はかなり長い期間続くことが少なくありません。

震災とは事象が異なりますが、今回の新型コロナウイルスによる緊急事態宣言や外出自粛も、社会全体へのインパクトはこれまでに経験のないものであり、その影響は長期化することが予想されます。今回は、こうした長く続くストレスから生まれるイライラについて、お話ししてみたいと思います。

■「過敏」と「不安」による疲れが、今、ピークに

今回のような大きな変化を経験すると、人は神経過敏になり、不安になります。ささいなことにも敏感になり、情報を絶えず求める。常に警戒のアンテナを立てているから心身のエネルギーを消耗し続けています。

消耗するとイライラするのは、人間に共通する本能的なプログラム。弱っているときは敵に付け込まれやすいから、イライラすることで自分の命を守ろうとしているのです。また、このように疲れているときに仕事が増えると疲労感は増すばかり。だから自分の仕事を増やす原因を作る対象、たとえば職場の人、あるいはパートナー、弱い存在である子どもや高齢者に矛先が向くことも多いのです。

外出自粛期間、いつまで続くかわからない感染症への不安で、多くの人がプチうつ状態になりました。うつ状態の人は、少し回復しつつあるリハビリ期にイライラが起こりやすく、本人もなぜだかわからないけれど、むしゃくしゃして家族に当たりたくなる。

イライラはエネルギーを放出する感情だから、ため込むのはつらい。だから常にターゲットを探します。しかし、そこで特定の人に当たっては、人間関係を悪くします。もっといけないのは、“当たりグセ”がつくこと。その人を見ただけでスイッチが入り、イライラをぶつけるようになる。次第にそんな自分を責めるようになり、うつ症状から回復できないという悪循環に陥ってしまいます。

イライラしているのは誰かが悪いわけでも自分に我慢がないからでもなく、コロナ禍によるもの、と受け入れましょう。

今、イライラしている人の多くはこの状態にあります。社会や生活の変化とウイルスへの不安などから、少し精神的に疲労してしまった。その疲労がイライラに向き、周囲との人間関係が崩れ、それがまた疲労を加速させる。そんな状態が続いてきて、この時期に疲れがピークに。でも、がんばる自分をやめられず、そんな自分にもイライラして、何だか自己嫌悪にもなる。これは、ずっと気を張ってきた結果、ようやく感情がSOS信号を出している状態と言い換えてもいい。そう思うと、本当の意味で「ペースダウンしよう」と思えるかもしれません。

■関係修復するより距離をおくこと

単純に嫌な相手がいるときなら、運動したり遊園地などで発散し、嫌な思考を中断させるという対処法でラクになれます。でも、今回扱っているイライラではこのような“はしゃぎ系”は厳禁。たとえそのとき楽しくても、疲れが上乗せされ、翌日には確実にイライラが増す。

当たってしまった相手との関係を修復しようと、あれこれ手を尽くそうとしても、この時期はうまくいきません。顔を見ればイライラする、という状態になっている相手だとなおさらです。目の前にケーキがあれば食べてしまうのと同じ。ならば、「ケーキをなくす」のが現実的な対処法になるんです。

イライラを喚起する人間関係や情報からは距離をとりましょう。メールやツイッターなど不安をかきたてる情報が流されている情報源は見ないことにする。イライラする相手とはできるだけ顔を合わせずに済むように、対処してみましょう。

じわじわと蓄積してきた疲労ですから、すぐには回復できないかもしれません。でも、疲れてしまったことを認めて自分をいたわることができれば、目の前の人にいつもより優しくなれるもの。人間って、そういう単純なところもあるんです。

(ライター 柳本 操)

[日経ヘルス2020年10月号記事を再構成]

下園壮太さん
心理カウンセラー。1959年、鹿児島県生まれ。防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。筑波大学で心理学を研修。陸上自衛隊衛生学校メンタルヘルス教官を務め、2015年退官。PTSD、うつ病などの多くのカウンセリング、講演等を手がける。著書に『自分のこころのトリセツ』(日経BP)などがある。