■慣れてきたら「1段飛ばし」で負荷を上げる

筋肉は、同じトレーニングを続けていると、その刺激に慣れてしまい、運動の効果が薄れてきます。毎日、階段を上り下りして1〜2カ月も経つと、それが楽に感じられるようになるかもしれません。

そうなったら、階段の上り下りの負荷をアップさせましょう。

例えば、駅の階段なら、1段飛ばしで上る。オフィスなら、それまで1フロア分の上り下りに階段を使っていたのなら、2フロア分に増やす。さらに負荷を上げるなら、目的階よりもわざと1フロア分、階段で余計に上り、それから下りてくる、というのも手です。

日常生活に運動の要素を取り入れるのであれば、階段以外なら、利用駅の一つ手前で降りて歩く距離を延ばし、しかも「インターバル速歩」を行うのもお勧めです。

インターバル速歩とは、普通のスピードで歩くのと早歩きとを交互に繰り返すもので、効率的に心肺機能を高めてくれます。例えば、「3分歩くごとに」もしくは「1ブロックごとに」などと決めて、普通歩きと早歩きを繰り返すといいでしょう。

これも、楽に感じるようになったら、早歩きのスピードを上げたり、また早歩きで歩く距離を延ばしたりすることで、負荷を上げていきましょう。

階段の上り下りや通勤途中のインターバル速歩で筋力や心肺機能が高まってくると、体を動かすことが楽しく感じられるようになってくるかもしれません。そうしたら、ぜひ、土日の時間のあるときに、本格的な運動に取り組んでみてはいかがでしょうか。

■ひょっとして「栄養不足」も原因?

ところで、相談者の方は運動不足が原因で階段を上ると息が上がると考えているようですが、私が心配なのは「別の要因があるのではないか」ということです。

「毎日、階段を使っていたのに、あるときから、階段を使うとすぐ息が上がるようになった」のであれば、前述のように疾患が原因の可能性もありますし、ほかには、「栄養不足」ということも考えられます。

「朝8時に出勤し、夜10時以降に帰宅」という激務ですから、食事にかける時間も限られてくるでしょう。そうなると、体に必要な栄養素をバランスよく食事でとるのも難しくなってきます。

例えば、時間がないと、つい、手っ取り早く食べられてすぐエネルギーになる「おにぎりと野菜ジュース」とか「麺類だけ」とか簡素な食事になってしまいます。すると、栄養が糖質に偏り、たんぱく質などが不足してしまいます。

筋肉の原料となるたんぱく質が不足し、かつ運動不足の状態が続くと、筋力が衰えてしまうので、階段を上るとすぐ息が上がってしまうというのも不思議ではありません。

また、夜10時以降に帰宅するとなると、「夜遅くに食べると太るから」と、夕飯をほとんど食べない日があったりするかもしれません。このように、忙しい生活を送っている人が栄養不足に陥っているケースをよく目にします。

バランスのとれた食事については、この連載で前回も説明しました。「糖質」「脂質」「たんぱく質」「ビタミン」「ミネラル」という五大栄養素をバランスよくとるために私がお勧めするのは、和食をベースにした「ご飯1杯、具だくさんの味噌汁、副菜1品、メインに肉か魚」というメニューです。

とはいえ、平日に遅く帰宅してから、こうした食事を用意するのは難しい、と思うかもしれません。また、勤務中に夕食の時間を十分にとれないこともあって、食事をとにかく簡単に済ませてしまうこともあるでしょう。

そのような場合は、「分食」という手もあります。例えば、夜7時〜8時ごろに、会社で仕事をしながらおにぎりを食べて、主菜と汁物は帰宅後に食べる。これならば、週末の時間のあるときに主菜と汁物をまとめて準備しておけば大丈夫です。実際、私もそうしています。

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相談者の方はまだ40代ですので、階段の上り下りなどから体を動かす習慣を身につけていけば、十分に筋力も心肺機能も高めていくことができるでしょう。ちょうど春になり、外を歩いたり体を動かしたりするのには気持ちの良い気候です。ぜひ、楽しんでください。

【中野さんからのアドバイス】

階段を上ると息が上がるのが心配と感じている人へ…

▼誰でも階段を上れば息が上がるもの。過度に心配する必要はない
▼エスカレーターではなく階段を積極的に使って体を動かそう
▼階段が楽になったら「1段飛ばし」などで負荷を上げよう
▼忙しくても「栄養不足」には注意。夕食の「分食」も有効

(まとめ:長島恭子=フリーライター/図版制作:増田真一)

[日経Gooday2021年3月17日付記事を再構成]

中野ジェームズ修一
スポーツモチベーションCLUB100技術責任者/PTI認定プロフェッショナルフィジカルトレーナー。フィジカルを強化することで競技力向上やけが予防、ロコモ・生活習慣病対策などを実現する「フィジカルトレーナー」の第一人者。元卓球選手の福原愛さんやバドミントンのフジカキペア、プロランナーの神野大地選手など、多くのアスリートから絶大な支持を得る。2014年からは青山学院大学駅伝チームのフィジカル強化指導も担当。早くからモチベーションの大切さに着目し、日本では数少ないメンタルとフィジカルの両面を指導できるトレーナーとしても活躍。『医師に「運動しなさい」と言われたら最初に読む本』(日経BP)などベストセラー多数。