住まいを掃除するときにあれこれ方法を調べ、その通りにしても効果がないばかりか、かえって汚くなることがある。そんな難しい汚れに効くのが「放置系」掃除術だ。

掃除の際に「こうすれば汚れが落ちるはず」という“読み”が外れることは意外に多い。家が汚れる原因は思いのほか複雑で、それが複合していることも多いからだ。

初心者向けの掃除マニュアルでは酸性の「油脂汚れ」、アルカリ性の「水アカ(カルキ)汚れ」、中性の「ホコリ」の3種類に単純化しがちだが、対応に困る汚れはこの範囲にとどまらなかったり、そもそも判断不能だったりすることが多い。掃除教室でも質問が多い「落とし方の分からない汚れ」は、たとえば次のようなものだ。

(1)たばこや線香の煙などが壁や家具を汚す「ヤニ汚れ」、(2)微細な泥砂や排ガスなどが電化製品の裏の壁を汚す「微粒子汚れ」、(3)部屋のあちこち、特にプラスチック製品が黄ばむ「紫外線劣化汚れ」、(4)湿ったベランダや外壁で黒ずみが広がる「コケ、カビ汚れ」。

これらは油脂汚れ、水アカ汚れ、ホコリのいずれなのか。それとも、そのどれでもないのか。

そもそも、調理時に出る油煙や皮脂が原因の油脂汚れ(酸性)、水まわりの鏡や水栓にくすみをもたらす「ミネラル汚れ」(アルカリ性)、排水口や浴室でぬめりや悪臭の原因になる「細菌汚れ」(おおむねタンパク質で油脂に準じる)は一般的で、掃除法や使う洗剤も知られている。だが、これらの掃除法を先ほどの(1)から(4)の汚れに応用するとうまくいかない。

生活するなかで徐々に生じてしまう複雑な汚れを落とすのに割ける時間は限られている。なるべく手がかからず効果的な方法を紹介したい。清掃、洗浄のプロが使う「CHAT理論」を基に、手間をかける要素をできるだけ省いた「洗剤」プラス「時間(放置)」での掃除法だ。

この「放置系」掃除術とは具体的には次のようなものだ。

▼ヤニ汚れ たばこや線香の煙が原因の黄ばみや黒ずみは「タール」が主成分で、酸性の油脂汚れに近い。ただ、汚れが付着しているのが壁紙などの場合、こすり拭きで力を入れ過ぎると破れてしまう。洗剤と時間を考える必要がある。

適しているのはアルカリ性か弱アルカリ性で、揮発しやすいアルコール分を含んだ住居用洗剤か壁紙用洗剤。汚れが気になる部分にスプレーするか塗布する。そのまま放置すると汚れが浮き上がってくるので、タオルやマイクロファイバークロスなど柔らかい布で拭き取る。汚れがひどければこれを繰り返そう。

▼微粒子汚れ(黒ずみ) 原因は酸性雨と同じくおおむね排ガスで、酸性の汚れの一種だ。壁などの近くに置いた電気製品の静電気によって引き寄せられ、付着する。落とし方はヤニ汚れに準じるが、見間違えやすいものとして、雨漏りや結露が原因で壁面に生じるカビがある。汚れに鼻を近づけるとカビ臭い場合は、建物の構造体まで傷んでいる可能性がある。すぐ専門家に調査を依頼しよう。

▼紫外線劣化汚れ 紫外線が起こす化学変化による「黄ばみ」も汚れと認識されることがある。代表例はプラスチック製品、特に屋内で多く使われるABS樹脂、例えばスイッチやコンセントプレートの黄変だ。これらは過酸化水素水(オキシドール)につけて太陽光(紫外線)にさらし、化学変化を促す方法でもとの白い色に戻ることがある。つけ込んでまる1日ほど放置し、その後は水でよくすすいで乾かそう。

▼コケ、カビ汚れ 戸建て住宅の外壁や塀、テラスやマンションのベランダなどの広い範囲に生じる黒ずみや、緑っぽい黒ずみ。これはカビ、藻やコケなど「生き物」によることが多く、放っておくとどんどんふえてしまう。

この汚れに効くのは消毒剤の塩化ベンザルコニウム。薬局やドラッグストアでは600ミリリットル、700円前後で手に入る。100〜200倍に希釈した水溶液をスプレーし、1カ月ほど放置する。残留成分が生き物の細胞をじわじわ破壊し、不思議に汚れが消える。だまされたと思って試してみてほしい。

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■プロの技「CHAT理論」

「CHAT」はChemical(洗剤)、Heat(熱)、Agitation(方法)、Time(時間・回数)の頭文字。この4要素を組み合わせ、バランスを最適化して効果を高める。例えば厄介な「油にまみれたキッチンの換気扇」の汚れ落としなら、Cは「強力なアルカリ性洗剤」、Hは「お湯などの熱」となる。Aは油汚れをこそげ取るヘラやブラシと人の力で、Tが掃除にかける時間だ。

アルカリ性洗剤は使いたくないとか、マイルドな重曹を使いたい場合はCの割合を減らし、ほかを増やす。

(住生活ジャーナリスト 藤原千秋)

[NIKKEIプラス1 2021年4月10日付]