男性の育児参加が求められている(写真はイメージ=PIXTA)脱・同質性の時代。様々なバックグラウンドを持つ人と共に働くことが当たり前となった。女性、シニア、外国人、障がいのある人、性的少数者(LGBT)、子育てや介護を担う人………。多様なメンバーが持ち味を生かしながら気持ちよく働くには、それぞれが互いの持つ背景を知り、尊重し合うための「対話」が必要だ。コロナ禍で突然迎えたテレワーク環境下、先進企業では、どんなコミュニケーションの工夫があるのか。ジャーナリストの野村浩子氏が報告する。

人口減少が進むなか、女性の活躍推進が急がれるが、同時に進めるべきは、男性の「家庭進出」である。男性社員が気兼ねなく育休を取得できるようにするための対話とは。

第6回は2020年に「男性育休100%」を目指すと宣言し、22年度末の達成を目標に掲げる大日本印刷の、ある男性社員と彼の上司のペアに注目した。

■男性育休5割超、地道な声掛けが支える

この6月、男性の育休取得を促す改革を盛り込んだ改正育児・介護休業法が成立した。22年度中にも施行が見込まれる改正法には、男性も子どもの出生後8週間以内に、最大4週間の出生時育児休業(産休)を取れるようにするなどの内容が盛り込まれた。企業に対しては、産休や育休について従業員に取得の意向を確認するよう義務付ける。23年4月以降は、従業員数が1000人を超える大企業に育休取得率の公表も求める。

現状はどうか。男性の育休取得率は最新データとなる19年度で7.48%(厚生労働省「雇用均等基本調査」)と10%に満たない。これに対し、大日本印刷では、20年度の男性の育休取得率が54.3%となった。現時点で5割を超す取得率は、現場のコツコツとした地道な取り組みによるものだ。

5年前、後藤さんは第2子誕生を機に、約1カ月半の育休をとった。今でも時折、子供が病気のとき、また保育園や学校の行事で半休をとるという

それを担う1人が、同社の生活空間事業部総務部エキスパートで労務を担当する後藤慶悟さん(35)だ。後藤さんは、配偶者の出産を機に関連の申請をしてくる男性社員に対して「育休はいつとるのですか」とすかさず尋ねる。ほぼ同時に、当該社員の上長には「(部下に)育休を取るようにすすめて下さい」とメールを送る。その際必ず、総務部長にCC(カーボンコピー)を入れる。

育休を勧められた男性社員の多くは、今でも「え、私が?」と戸惑いを見せるという。さすがに以前のように「育休は女性がとるものでしょ」と口にする人はいなくなった。しかし「男性も育休取らなきゃいけないの?」といった言葉にならない抵抗感が根強くあるようだ。

それでも後藤さんが、男性社員にためらいなく育児休業を勧めるのには理由がある。自身も5年前、少し長めの育休をとったからだ。

「(育休取得を経て)後藤さんは一皮むけた」。こう話すのは、生活空間事業部総務部長の木村尚史さん(51)。木村さんは現在、後藤さんの上司であるだけでなく、後藤さんが育休を取得した際に背中を押した上司でもある。さらに今、後藤さんが育休取得を促すメールを当該社員の上長に送る際、CC(カーボンコピー)で状況を共有しているのも木村さんだ。

木村さんは、「(復帰後)労務担当の彼を頼ってくる社員が増えた」と評価する。後藤さんが、社員と接する際の対話が大きく変化したからだ。

労務担当という仕事柄、社員からは日々、様々な相談が寄せられる。女性社員からの産休や育休の取得にまつわる相談はもちろん、在宅勤務、社宅制度なども。会社の労務管理上の規定のみならず、相談内容は実に多岐にわたる。

あるとき子育て中の女性社員が、会社の両立支援策について相談にきた。対応した後藤さんは「配偶者はどんな就業状況ですか」と問いかけつつ、「私自身は家庭でこう分担していますよ」と自身の体験談も披露。会社の支援策のみならず、自治体のファミリーサポートや民間のベビーシッターサービスの紹介など、アドバイスは当事者ならではの使えるものばかり。相談者はほっとした表情を浮かべた。木村さんはそうした後藤さんの仕事ぶりを見て「成長した」と感じたのだ。

後藤さん自身も、育休を取得したことで思考回路が変わったと実感している。労務担当として多様な「当事者に寄り添う目線」となり、人事部に旧来の働き方に沿ったルールの見直しを提案したり、事業部の運用で柔軟に対応したりするようになったという。