日経トレンディは令和2年が様々な新技術が産声を上げる激動期だと捉え、我々の生活や日本経済に深く関わるテクノロジーやサービス、交通などが今後どうなっていくかを予測した。今回はその中からフードテックの「調味料プリンター」を紹介する。

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新興フードテック企業のルナロボティクス(静岡県伊東市)が開発している「colony(コロニー)」は、いわば調味料の「プリンター」だ。しょうゆやみりん、酒、酢、塩、ダシなど、基本的な調味料を詰めた8〜12本のカートリッジを本体に装着。それらをポンプで吸い上げ、それぞれ指示通りの量を出力する。調味料の組み合わせや、配合比率によって膨大な種類の味わいを生み出すという構想だ。

例えば、チキンナゲットのソースやドレッシングなら数百種類、卵かけごはん(TKG)のたれであれば1500種類を超えるバリエーションを理論上作れるという。蜂蜜の他、マヨネーズやケチャップ、コチュジャンなども粘度を調整することで、カートリッジに充填可能になる。サラダや揚げ物ならそのままかけたりソースとして付けたりして食べるだけ。煮物料理なら材料と一緒に煮込むことで、普段と違った味わいを自由自在に楽しめる。

飲食店向けプロトタイプの内部。本体左右に4本ずつ調味料カートリッジを配置する

これまでの調理家電は、炊飯器にしろオーブンにしろ、プロ並みの「火加減」の再現を目指したものや、調理時間の短縮、手間無し調理を実現するコンセプトがほとんどだった。それに対してコロニーは、料理にとって最も重要な「味付け」にアプローチする発想で、料理が苦手な人でも直感的に五味(甘み、酸味、塩味、苦み、うまみ)を操れる。アイデア自体は、世界でも類を見ないものだろう。

ルナロボティクス社長の岡田拓治氏は、大阪の老舗中華料理店で修業を積み、複数の飲食店や料理をメインに据えた沖縄の宿泊施設を経営した後、68カ国を旅して世界中の料理を食べ歩いた。現在も、身一つで全国に料理を振る舞いに行くケータリング事業も営む、生粋の料理人だ。修業時代の中華料理店では、100種類以上あるメニューを僅か6種類の調味料を組み合わせるだけで作り分けていた。その経験が、調味家電のコロニーの発想に結び付いた。

コロニーは複雑な操作を必要としないため、店のカウンターなどに置けば、客自身が使って味わいの変化を楽しめる。辛め、甘めなど様々な味わいに調整されたしょうゆのカートリッジが装着されており、客が選びやすいよう7〜8種の組み合わせがあらかじめ設定されている。外付けの端末画面をタップするだけで、個性あふれるTKG専用たれが抽出される仕組みだ。

「料理人の育成や人手不足など、飲食店の課題を解消できる。コンビニやスーパーにコロニーを置き、サラダや総菜の味付けを客自身が行うということも提案したい」と岡田氏は話す。

カートリッジの組み合わせで、無数の味付けを実現できるという(ルナロボティクス資料より)

コロニーはまずは飲食店向けに展開する。個人向けには20年中にクラウドファンディングを実施。本体価格は約10万円を想定している(カートリッジは別売り)。調味料カートリッジはルナロボティクスが提携メーカーと共に開発する特製フレーバーを用意するほか、利用者が好みの調味料を詰め替えて使うことも可能だという。

個人向けの製品展開に当たっては、専用アプリを用意する。アプリ上で各調味料カートリッジからの抽出量を自在に調節できるほか、ルナロボティクスが制作したレシピ動画をタップするだけで推奨する配合の調味料が抽出される構想だという。アプリ登録時に年齢や性別などの他、アレルギーや持病といった個人情報を収集し、利用動向に応じて味わいの好みを判別。「食の嗜好と健康データを基に、栄養バランスやダイエット、体づくりなど、ユーザーの目的に合わせたメニューや、味わいをパーソナライズして提案することも検討している」(岡田氏)。

(ライター 北川聖恵)

[日経トレンディ2020年1月号の記事を再構成]