そばは日本人にとってなじみ深い食べ物です。江戸時代からあり、大衆向けに安くて親しみがありますよね。江戸時代の値段は1杯16文程度だそう。今の値段に換算すると300〜500円程度ですから、立ち食いそばの値段とほぼ変わらないです。そばに使う「そば粉」が値上がりしています。日本で流通するそばの実の輸入の7〜8割を占めているのが中国産。この中国産そばの実が意外な影響で値上がりしています。

■中国産が前年比3割高

そば粉は玄そばという殻付きの実をひいて製造します。中国産のそばの実の流通価格は現在、45キロ7400円。前の年と比べて3割上昇し、記録を遡れる1997年以降で最高値になりました。そば製粉大手の日穀製粉は3月、中国産原料を使ったそば粉の値段を1キロ70円程度上げました。1杯300円程度という安い価格でそばを提供している立ち食い店にとって痛いコスト上昇です。

大きな要因は2つあります。ひとつは中国のそば栽培の減少です。米中の貿易対立の影響で、中国は米国から輸入している大豆やトウモロコシについて国産化を推進。農家に補助金を出して栽培を奨励しています。そばから補助金の出る大豆やトウモロコシの栽培に切り替える農家が増えています。そばは荒れ地に強く栽培しやすい作物なんですが、アワやヒエなどほかの作物と比べると安く取引されており農家の作付け意欲も低下しています。

■そば使うロシア伝統料理も影響

もう一つの理由がロシア産の流通の減少です。日本のそばの輸入量は中国が大半を占めていますが、世界的に見ると生産量1位はロシア産です。ロシアは消費量も世界一です。日本と違ってそばの実を「カーシャ」というおかゆにして食べます。新型コロナ禍でロシアが穀物輸出を一時停止していました。中国のロシアからの昨年のそば輸入量は前の年と比べ10分の1以下に落ち込みました。中国内で需給が逼迫し単価が上がりました。

新型コロナウイルスの感染拡大や米中貿易対立の行方もまだまだ不透明なため、今後も厳しい状況が続きそうです。そば店にも値上げの動きが出ています。全国展開する大手そばチェーンの「ゆで太郎」は5月以降に値上げを検討していて、かけそばで1杯20円程度上げる見込みです。

値上がりはそば粉の値上がりだけではないんです。そば粉百パーセントの「十割そば」はともかく、手ごろな値段のそば店が出すそばは「つなぎ」として小麦粉や山芋が使われています。輸入小麦粉も1年前に比べ値上がりしています。そば店にとってはそば粉に加え、小麦も値上がりとなっているわけですから、立ち食い店はさらに値上げせざるを得ないかもしれません。

■国産値下がり・中国産と値差縮まる

一方で国内産のそばは値下がりしています。昨年はコロナによる飲食店の時短営業により、需要が減ったことでさらに値下がりしました。国産の半数近くを占める北海道産の玄そばの流通価格は現在、45キロ9000円。1年前と比べ12%安です。2018年は2万500円と今より倍以上の値段で取引されていました。中国産との価格差も過去最少となっています。

国内産と輸入品の価格差が近いなら、立ち食い店でも国産を使えばいいのではと思いますね。実際にそういった動きも出てきています。ゆで太郎は約600トンの北海道産の新そばを仕入れ、昨年11月から今年1月までの3カ月間、全店で北海道産の新そばを使うキャンペーンを展開しました。ただ国産は半分が北海道産で、天候不順に見舞われたときにかなり高騰してしまうリスクがあります。全国展開し大量にそば粉を使う店舗では簡単に販売価格に転嫁することも難しいため、値段が不安定な国産を常時使っていくのは現実的ではなさそうです。

そば粉や小麦粉といった原材料は安いものにすると品質や味を落とすことになります。他の部分でコストを抑える動きが出てきています。コネクテッドロボティクスはそばの注文から調理、決済、食器洗浄までの作業をロボットで代替する「ロボットキッチン」を開発しました。補助要員として1人いれば、そばの注文から食器洗浄までできるため人件費を削減できます。電気・水道代を年間30万円削減できるそうです。

(BSテレ東日経モーニングプラスFTコメンテーター 村野孝直)

値段の方程式
BSテレ東の朝の情報番組「日経モーニングプラスFT」(月曜から金曜の午前7時5分から)内の特集「値段の方程式」のコーナーで取り上げたテーマに加筆しました。