優れた聞き手は常に受けとめる対応をする(写真はイメージ=PIXTA)

日経xwomanで、サンリオエンターテイメント社長 小巻亜矢さんと「聴く極意」シリーズ連載で語り合ったエール取締役の篠田真貴子さん。そんな篠田さんは、出合った1冊の本の前書きを読んだだけで「いま私が考えていることがたくさん書いてある!」と興奮したといいます。著者は『ニューヨーク・タイムズ』を中心に米英の有力紙で活躍するジャーナリストのケイト・マーフィ。彼女が大量の文献を読み、数多くのインタビューを行ってまとめた本を篠田さんが監訳した書籍『LISTEN 知性豊かで創造力がある人になれる』から、一部を抜粋・編集してお届けします。

■聞き上手は、人をひきつける

ジェニー・ジェロームはアメリカ社交界の著名人で、ランドルフ・チャーチル夫人としても知られていました。そう、英国首相ウィンストン・チャーチルの母です。

彼女は回顧録の中で、英国の政治家で最大のライバル同士であるベンジャミン・ディズレーリとウィリアム・グラッドストンについて、それぞれと食事したときのことをこんなふうに描写しています。

「グラッドストンの隣に座ったあとにダイニング・ルームを出るとき、彼をイングランドでもっとも賢い男性だと思いました。でもディズレーリの隣に座ったあとは、私がもっとも賢い女性だと感じました」(注1)

(注1)Dick Leonard, The Great Rivalry: Gladstone and Disraeli (London: I. B. Tauris, 2013),202-203; “Stanley Weintraub: Disraeli: A Biography,” C-SPAN video, 58:56, February 6,1994, https://www.c-span.org/video/?54339-1/disraeli-biography.

彼女が自分を賢いと感じさせてくれるディズレーリと話す方を好んだのは、当然です。

保守党党首として2度、英国首相を務めたディズレーリは雄弁家でしたが、同時に熱心な聞き手でもあり、人に気を使い、巧みに話し相手の方へと会話を導きました。おかげでビクトリア女王からも寵愛(ちょうあい)されました。女王は選挙中、あからさまにグラッドストンよりもディズレーリを好んだために、中には憲法違反ではないのかという人もいたほどです。

ディズレーリがこまやかな注意を向けていたのは、貴族社会と王族に対してだけではありませんでした。

英国のロンドンを拠点にする日刊紙『ザ・タイムズ』が、まるで彫刻家が「大理石の中から天使」を見いだせるように、ディズレーリは労働者の中から保守党支持者を見いだすことができる、と書いたのは有名な話です(注2)。

(注2)“Angels in the Marble?,” Economist, September 6, 2001, https://www.economist.com/united-states/2001/09/06/angels-in-the-marble

■ヘタな聞き手と優れた聞き手の違いとは

ディズレーリは、ボストン・カレッジの社会学者チャールズ・ダーバーが「受けとめる対応」と呼ぶものの達人でした。

ダーバーは1970年代から、人づきあいの場面において、人がいかに注目を得るためにふるまったり競い合ったりするかについて、関心を寄せ続けています。

夕食でのカジュアルな会話を100件以上録音して書き起こしたダーバーは、そこに2種類の対応があるのを見出しました(注3)。

(注3)Charles Derber, The Pursuit of Attention (New York: Oxford Uni versity Press, 2000).

このふたつのうち、より一般的なのが、「ずらす対応」です。これは、注意を話者から応答者(聞き手)の方へと向けるものです。

もうひとつ、比較的少ないもので、ディズレーリがたけていたのが「受けとめる対応」でした。これは、応答者がもっと深く理解できるように、話者にさらなる説明をうながすものです。例として、こんなやり取りがあります。

ジョン:うちの犬が先週、いなくなっちゃったんだ。見つけるのに3日かかったよ。

メアリー:うちの犬はいつもフェンスの下を掘っているよ。だからリードをつけないと外に出せないの。(ずらす対応)

ジョン:うちの犬が先週、いなくなっちゃったんだ。見つけるのに3日かかったよ。

メアリー:えーそうなの。で、結局どこで見つかったの?(受けとめる対応)

スー:ゆうべ、すごくおもしろい亀のドキュメンタリーを見たの。

ボブ:ドキュメンタリーはそんなに好きじゃないな。俺はアクション映画の方が好き。(ずらす対応)

スー:ゆうべ、すごくおもしろい亀のドキュメンタリーを見たの。

ボブ:亀? へえ、どういう流れでそれ見たの? 亀好き?(受けとめる対応)

優れた聞き手は常に、受けとめる対応をします。

受けとめる対応は、(書籍の第5章で説明した)「話を受けとめたうえで、意味づけしたフィードバックを返す」のに重要ですし、(書籍の第9章で取りあげた)誤解を避けるためにもやはり重要です。