心肺停止した人の応急手当てとして、誰でも使える自動体外式除細動器(AED)。公共施設や企業への設置が増えた半面、大規模集合住宅への普及は進んでいない。日本循環器学会によると病院外で起こる心肺停止の約7割は住宅で発生しているとされ、医学関係者らがマンションへの設置も推奨する一方、管理組合側には費用対効果を疑問視する声も。関係者は「導入する際には、隣人同士の見守り合いの関係構築も進めるべきだ」と指摘する。

 「AEDを置いたら住民の防災意識が高くなった」。福岡市東区のマンション(3棟、160戸)に住む防災士の宮下輝雄さん(69)はうなずく。管理組合理事長を務めていた5年前にAEDの設置を決め、1台を約40万円で購入、玄関内側に設置した。住民たちに説明したことを機に防災訓練への参加率が上がり「台風などの時、住民同士で声を掛け合う機会が増えた」という。約3年前、1棟の改装に来ていた業者の男性が作業中、心肺停止状態に。救急車を待つ間に同僚がAEDを使用、一命を取り留めた。宮下さんは「人命を助けられて良かった」と胸をなで下ろす。

 消防庁によると、2015年に街中などで心肺停止となった人の1カ月後の生存率はAEDを使った場合は54・0%で、使用しなかった場合は11・1%。循環器科医でつくる「日本循環器学会AED検討委員会」(東京)は人口が密集する集合住宅を「設置が推奨される施設」と位置付け、普及を呼び掛けている。

 ただ福岡県内で684のマンション管理組合が加盟するNPO法人福岡マンション管理組合連合会(福岡市)によると、県内でAEDを設置しているのは「集計はしていないが、数カ所程度では」。消防庁は「家族がいれば別だが、集合住宅は具合の悪くなった人を第三者が見つけにくい。独り暮らしも増えており、AEDの効果が発揮しにくい側面もある」とみる。

 福岡市南区のあるマンション(80戸)は築22年。2年後、12年に1度の大規模改修が控える。AEDの設置はリース契約でも毎月約6千〜7千円。管理組合理事長の男性は「確実に役に立つか分からない。管理費負担が増えるなか、設置費は簡単に捻出できるほど安くない」と消極的だ。

 マンションの家の中で誰かが倒れた時、AEDを有効活用するには−。宮下さんは「マンション内で緊急連絡網を作成するなど支援態勢をつくっていきたい」と話す。