福岡県朝倉市役所別館に7月5日に設置された災害対策本部。雨漏りのために床は水浸しで、多くの職員ははだしで室内を動き回った。「避難指示を出すぞ」「避難所は準備できているのか」。市幹部の怒号が飛び交った。

 雨の勢いは市の対応速度を上回っていた。市は地区ごとに順次避難指示を出し、午後7時10分、全域に拡大。朝倉市甘木の安部千富さん(41)の自宅はその約4時間前、水路からあふれた水に囲まれていた。自宅は周囲より土地がやや低く、玄関の扉は水圧で開かなかった。119番しても「救助要請が多くて行けません。自力で避難を」。自宅に閉じ込められたまま一夜を過ごした。安部さんのような家は少なくなかった。

 市は気象情報や住民の通報などから「総合的に判断」し、避難指示を出したという。だが、根拠の一つ、気象情報を出す気象台そのものが戸惑っていた。

 福岡管区気象台は、猛烈な雨が降ったとして、午後1時28分から断続的に「記録的短時間大雨情報」を発表し、災害への警戒を呼び掛けた。横光雅種主任予報官らはこのころから、数十年に1度の雨として「特別警戒警報」を出すことも念頭に置いていた。

 朝倉市周辺の上空では積乱雲が次々と発生し、帯状に連なる「線状降水帯」ができていた。線状降水帯によってどれだけ大雨が続くのか、今の技術では正確な予測は難しく、この時の判断は「線状降水帯は3時間もすれば消滅するか、移動するだろう」。地中にたまった雨の推定量も警報の発表基準を満たしていなかった。

 しかし、線状降水帯は居座り続けた。「こんなこと異例だ」。横光主任予報官らは雨が続くと判断し、福岡県に大雨特別警報を出した。午後5時51分。午後3時ごろの大雨のピークは過ぎていた。