【1975年式 いすゞ 117クーペ XC  Vol.1】

日々進歩する科学。現代のクルマが高性能であることは言うまでもないが、それとひき換えに置いてきたものもある。
デザインのためのデザイン、カースタイリングはその最たる例だろう。走る造形美を思わせるイタリアン・カロッツェリアの導入、
なかでもその流麗さで人々をひきつけたクルマの1台が、いすゞ117クーペだった。


フロアトンネル、シートバックと一体化したデザインの内張りなどにより、2+2クーペとしての仕上がりを際立たせているリアシートなど【写真16枚】
最高峰のデザインが日本車に、それだけで十分以上の価値が 「私の写真じゃなくて、クルマの写真をたくさん撮ってください」。

 取材現場でこう切り出したのは、1975年式いすゞ117クーペXCのオーナー。ご本人は29歳、車齢は40年と今回もまた世代を超えた若いヒストリックカー・オーナーの登場である。

 しかし、リアルタイムで目にしたことのないクルマを、どうやって知り、どうして手に入れる気になったのか、取材する側としては当然このあたりが気になってくる。

「もうスタイリングに尽きると言っていいんじゃないですか。こんなスタイリッシュなデザイン、ほかにないですよ。日本車離れしたデザイン、と言ったら当たり前すぎますか? ジウジアーロですから、日本車に似ないのは当然ですよね」。

 日本のモータリゼーションが勃興期にあった60年代、日本の自動車メーカーは商品力を高める目的でこぞって海外にデザインを依頼。日本のデザインが遅れていたことも事実だが、ピニンファリーナやベルトーネといった世界的に名うてのデザイン工房に発注することで、最先端のスタイリングを取り入れようとしたわけである。

 117クーペは、ベレル/ベレットで乗用車市場の足固めを図っていた当時のいすゞが、企業イメージの高揚を狙って企画したスペシャリティクーペで、デザインをカロッツェリア・ギアに依頼。担当デザイナーはジウジアーロだ。ベルトーネ時代に手掛けたフィアット・ディーノ2400クーペやイソ・グリフォと酷似したデザインを持ち、直後に発表されたデ・トマソ・マングスタとも共通した面影を持っている。

 こんないきさつを持つ117クーペとジウジアーロのデザインに魅せられてしまったオーナーだが、職業はアパレル関係ということで、当然ながらデザインに関する審美眼は人一倍だ。

「こうしたデザインを優先させたクルマの形は、いまのクルマでは衝突安全などの問題があって、再現不可能なんですよね。機能、性能優先ということは分かるんですが、造形としての魅力がまったく感じられない。目はどうしても、形に自由度があった時代のクルマに向いてしまいますね」。

 オーナーと話をしていて、すぐに旧車ファンに共通する思いが伝わってきた。現代のクルマは実用の道具として見た場合、快適で安全で燃費もよくて非のうちどころはないのだが、運転して楽しいか、形として眺めたときにどうなのかと問われたら、趣味の対象にはなり得ない、という価値観だ。

 そしてオーナーの目に映った117クーペは、個性ある形が数多く林立する時代にあっても、ひと際抜きん出る存在だったのだ。


【2】【3】に続く