「珍車秘宝館」は、国産車や輸入車はもちろん、クルマにまつわる激レア品や珍品、摩訶不思議なパーツなどにもスポットを当てるマニアックなコーナーで、館長の貴重な体験やコレクションなども合わせて紹介していく。今回は、マツダ初の乗用車となったR360クーペとトルコン式ATミッションに注目! 

【マツダ R360 クーペ Vol.3】

【2】から続く

 エンジンに続き、気がかりなATの整備にも着手。

「日本初のAT車は、今はオフィス家具などで有名な岡村製作所のミカサツーリングというクルマです。R360クーペにも、岡村製作所製のトルコンが採用されています。ミッションとトルコン部分は別室になっていて、MTのクラッチ部分がトルコンに置き換えられた仕組みです。エンジン→トルコン→トルコンブレーキ→ワンウェイクラッチ→ミッションという駆動の流れで、タイヤに動力が伝わります。

 通常なら、エンジン→トルコン→ミッションでOKですが、エンジンがかかったまま停止時にシフトチェンジするためと、走行時にも2速→1速に手動でチェンジできるように、トルコンブレーキとワンウェイクラッチが組み込まれています。エンジンからトルコンを介して動力が常時伝わっていますので、エンジンがかかった状態でシフトしようとするとトルコンを経由した回転がそのままミッションに伝わってしまいます。なので通常のミッション車と同じく、エンジンからの動力を断つ必要があり、苦肉の策(?)でトルコンブレーキを設けてあります。シフトレバーの上にボタンがあり、ボタンを押すとトルコンブレーキの電磁石が働き、ママチャリのリアブレーキのようなバンドブレーキが作動します。ボタンを押している間はトルコンが滑った状態になり、ミッションのインプットシャフトの回転が止まるので、チェンジできる構造です。しかし、50年以上経ってまともに機能するはずもなく、ATのオーナーは、無理矢理チェンジしたり、チェンジするためにいったんエンジンを停止し、シフトを入れてからエンジンをかけたりしているようです」とのこと。館長のクーペちゃんも全く機能しない状態で、分解して研究開始。

>>【画像22枚】当時のカタログに掲載されていた解説図など。上のイラストでミッション部分は、「補助ミッション」となっているのがポイント。トルクコンバーター自体が減速装置になっていて、通常は2速ギアに入れたままで走行する


「ブレーキシューの部分は石綿を練ったようなものを背金に貼りつけているだけで……、これはダメ。トルコンブレーキ部分はミッションオイルが回っているため、オイル内で確実に止める必要があります。そこで、いろんな素材を貼りつけては実際に電磁石を通電作動させて、トルクレンチで回してチェックしていきました。一番結果が良かったのが工業用タイミングベルトを切ったモノでした。それと、メインシャフトのブッシュをニードルベアリングに変更したのもポイント」と館長。各部を修復、改良され、絶好調になったクーペちゃんは、カタログの最高速80km/hを超える性能を発揮しているそうだ。


トルコンブレーキ

>> 純正は、石綿を練ったようなものが貼ってあり、ボロボロの状態。これではブレーキが利かず、シフトチェンジが困難。

>> 研究の結果、トルコンブレーキ部には工業用タイミングベルトを切って貼り付けたもので修復。

>> ギアの下にある接触面を、ドラムブレーキの要領で挟み込みブレーキがかかる。ギアの部分はワンウェイクラッチとなる。

>> 修復したトルコンブレーキ。右側のシャフトで引っ張ることでブレーキが作動。


ミッション

>> ケースに腐食による大穴を発見。溶接を行おうとトーチを当てたところボワっとなり、トーチを離したとたんメラメラとケースが燃えはじめた。ハッとマグネシウム合金に気付き、結局はアルミのロウ付けで修復したそうだ。


>>ミッション内部のベアリングを交換するにあたり、新品のローラーベアリングに1mmの溝を加工。

>> メインシャフトとバックギアの間を、焼き付き防止でニードルベアリング仕様に改良。「高速で走行中、バックギアとメインシャフトが焼き付き、その結果、前進とバックの2重かみ合いが起こり、リアタイヤがロック。スピンしちゃいました」と館長。常時かみ合い式のバックギアが採用されているために起きたトラブルだ。


>> ニードルベアリングが入るように、ギア類も新たに製作。


>> 焼き付いた純正ブッシュは、プレスで抜かなければいけないほどだった。


>> 組み上がった前進2段、後進1段のギア。



【1】【2】から続く