日本シリーズ第7戦のゲームセット後、オリックス・中嶋聡監督が選手たちの待つマウンドにゆっくりと歩を進めた。

「ヨッシャー!」

 その雄叫びは取材エリアまで聞こえてきた。

 中嶋監督は感情を表に出すタイプではない。選手に対しては自身から話し掛けて行く「気配りの人」。しかし、メディアの前ではあまり多くを語ろうとしない。そんな実直な指揮官が込み上げて来る感情を爆発させたのだ。

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 試合開始の約2時間前、中嶋監督を悩ませる“ヤクルト情報”が交錯していた。

 「マクガフが試合出場メンバーから外れた」――。

 燕の守護神・マクガフは前日(第6戦)にバント処理を誤り、一塁に悪送球してしまった。第5戦に続く送球ミスであり、精神的ショックも心配されていた。

 第6戦終了後、高津臣吾監督は「彼への信頼は変わらないです」と言い切った。その様子からして、第7戦もマクガフを使うと思われていたが…。

 「僅差になった時、誰が9回に投げて来るんだ?」

 オリックス打線はマクガフに打ち勝っている。取り越し苦労なのだが、些細な情報でも気になるのも短期決戦の特徴だ。

 「中嶋監督は6回にリリーフの宇田川優希を投入した直後から、センターバックスクリーンのスコアボードと手帳を何度か見直し、考えていました。今シリーズは不調とは言え、山田哲人、村上宗隆の打順を気にしていたんだと思います」(関係者)

 相手の出方を探る。そんな心理戦が繰り広げられていた。

 しかし、心理面が影響し、マイナスの方向に出てしまったのはヤクルトの方だった。

 5回表、ヤクルトの守備が乱れた。

 先頭打者が出塁し、次打者は先発ピッチャーの宮城大弥。定石通り、送りバントのサインが出されたが、バットに当てられた打球は勢いがあった。送りバントとしては落第点だが、ピッチャーのサイスニードと三塁手・村上の間を抜けて行き、内安打になる。

 無死一・二塁、次打者の太田椋にも送りバントのサインが出された。打球の失速具合、転がって行く方向、太田のバントは“野球の教科書”に載せたいくらいだった。しかし、村上が打球処理をためらってしまう。

 「内安打を許した直後だったので、冷静な判断ができなかったんです」(プロ野球解説者)

 その後、サイスニードが踏ん張って2アウトまで漕ぎ着けたが、オリックスの5番・杉本裕太郎の打球が左中間へ。中堅・塩見泰隆が追い付いたように見えたが、グラブには入らなかった。

 守備に就いている時間が長くなり、「注意力が散漫になった」との声もあれば、「慎重になりすぎて失敗した」との指摘も聞かれた。

 些細な心理的な変化がプレーを変えてしまうようだ。

 オリックスの26年ぶりの日本一が決定したのと同時に飛び込んできたのが、主砲・吉田正尚のメジャーリーグ挑戦志望や、エース・山本由伸の「2023年オフのポスティングシステムによる米球界移籍」のウワサ。投打の中軸選手の喪失に備えてか、今オフの国内FA市場にも“強い関心”を持っているという。

 「日本シリーズで手付かずになっていた戦力補強の話を詰めなければなりません」(前出・関係者)

 心理戦を制した中嶋監督の2023年シーズンはもう始まっている。(スポーツライター・飯山満)