筑波大の快進撃が止まらない。

 第97回天皇杯全日本サッカー選手権大会において、1回戦でJ3の「Y.S.C.C.横浜」を2−1、2回戦でJ1のベガルタ仙台を3−2、3回戦でJ2のアビスパ福岡を2−1で撃破。

 格上とも言えるJリーグの3クラブを連続撃破した快進撃には、実は具体的な裏付けがあった。

 それは、筑波大学蹴球部内にある「パフォーマンス局」と呼ばれている組織のことである。

 この組織を立ち上げたのは今から2年前、現在の監督である小井土正亮が就任1年目の時だった。大学の学部や学科とは一切関係がない、蹴球部が自発的に設けた組織だった。

「選手達の間に『ピッチの中でだけサッカーをしていれば良いんでしょ』という空気があったんです。プロの選手ならそれで良いのかもしれないが、筑波大にはみんな勉強しにきているわけですよね? だったら、筑波大らしく、その勉強という部分を活かしてパフォーマンスアップを実現できるんじゃないか、ピッチ外でまだやれることが沢山あるんじゃないのかと思ったんです。

 そこで考えたのが、サッカー部の選手自身が自分達の試合やJリーグや海外の試合を分析して、自分達のチームやプレーに反映させるデータを作り出すという『パフォーマンス局』のアイディアだったんです」

今では7部門にまで増えたパフォーマンス局。

 パフォーマンス局のメンバーになる・ならないは選手の自由。強制は一切しなかったのだが、「かなり需要が多くて驚いた」と小井土監督が言うように、多くの選手が参加を希望した。中にはAチームのレギュラークラスの選手もいたという。

「ウチの学生は部の運営の部分でも、すごく意欲的な人間が多くて。彼らは、役を与えさえすれば十二分にやれる能力を持っていたので、この『パフォーマンス局』のアイディアもすぐに軌道に乗るとは思った」

 小井土監督の狙いは的中し、今では「データ部」「アナライズ部」「ビデオ部」「トレーニング部」「ニュートリション部」「フィットネス部」「メンタル部」と7つの部門まで生まれ、大きな存在感のある活動へと成長した。

選手である学生たちが、自主的にデータ分析を。

 学生らは、自分達の試合のクロス数、パス本数、プレーエリアなどを徹底的に数値化して分析。個人の走行距離や心拍数、スプリント回数も計測して普段の練習に反映させているのだという。

 自分達の試合だけでなく、他のカテゴリーの試合のビデオも大量に揃えており、それを見ながら新しいプレーのヒントを見出したり、敵チームのプレー傾向や狙うべきポイント、ゲーム展開にまで細かく目を凝らす。小井土監督はかつて柏、清水、G大阪でデータ分析も担当していた経験もあるので、プロレベルの高等な分析ノウハウを惜しげもなく学生に伝えているそうだ。

 その成果を試合前ミーティングに提出し、個別プレーの確認やチームとしての戦術チェックに役立てているのだという。

選手としてもアナリストとしても優秀という浅岡大貴。

 今年で3年目を迎えるパフォーマンス局。

 今季チームのレギュラークラスではFW北川柊斗、MF浅岡大貴、鈴木徳真、DF鈴木大誠、小笠原佳祐らがパフォーマンス局のメンバーで、浅岡と鈴木大誠に至っては、毎試合自分達の試合を細かく分析し、小井土監督にレポート提出しているのだという。

「小井土監督のサッカー観には、『相手を観察して、相手とサッカーをする』というのが前提にあります。特に相手との戦術的な噛み合わせに関しては、小井土監督からすごく細かく教えてもらいました。その上で自分でチームや個人の分析などをすることで、自分のプレーにも良い意味で反映されていると思います」

 こう語るのは、ピッチ上でもパフォーマンス局でもエース級の存在感を放っている浅岡だ。

 彼はデータ部とビデオ部を兼任する“データ分析の強者”。「プロでも通用する分析力を持っている」とボランチコンビを組む鈴木徳真が語るように、筑波大の頭脳の象徴になっている。

「仙台戦も福岡戦も、全員が戦い方の意図を共有しながら、90分間最後まで戦い抜くことができました」(鈴木徳真)

相手が戦術を変えてきても……想定内だった。

 Jリーグのチームを続けざまに倒した試合も、相手の出方に対してピッチ上で選手達ひとりひとりが独自に考えて動き、かつ相手チームを徹底的に分析した戦術を組織的に行う……という両輪があったからこその結果だったのである。

 特にそれが顕著だったのがアビスパ福岡戦だ。

 当初のスカウティングでは3バックでくることを予想していた。しかし、いざ試合となり、整列後にピッチに散らばる福岡の選手を観て、筑波大の選手達はすぐに感づいた。

「4バックだ!」

 この瞬間、筑波大の選手達は言葉を交わしていない。だが、福岡が4バックであることをすぐに全員で共有できていたという。

「当然、福岡が4バックでくる可能性も事前に話をしていましたので。僕自身も相手が4バックと3バックの時とは、ビルドアップの立ち位置を変えようと思っていたので、対4バック用の立ち位置に移らなきゃな、と。もちろん、個人的な判断でした」(浅岡)

 筑波大のシステムは4-2-3-1。ボランチの浅岡はビルドアップの位置を微妙に高くした。特段、その考えを言葉で周りには伝えていない。しかし、「4バックの時点でビルドアップのやり方が変化するのは分かっていた」と、右サイドハーフの会津雄生も語るように、チーム全員が瞬時に浅岡の意図を汲み、見事に彼の動きに連動していた。

ピッチ上の選手とベンチ選手の分析が、完全にリンク。

 そして……実はピッチ外でもまた、いつもの綿密な分析が始まっていた。

「外から見ていると、相手が4-4-2にしてくれたから、逆にこっちがハメやすくなったし、中の選手もやりやすくなったんじゃないかな、と思った」(鈴木徳真)

 不動のボランチだった鈴木徳真は負傷明けで、この日はベンチスタート。だが、常にピッチ上の変化に目を配り、ベンチにいながらゲーム展開を分析していた。

「今回の福岡戦のポイントは、会津が左サイドの亀川諒史選手のマンマークについて仕事をさせないこと。

 当初はウィングバックを想定していたけど、サイドハーフ気味でした。そこで混乱せずに、会津はそのまま亀川選手のマンマークに付きながら、右サイドバックの小笠原があまり上がらないで他に対応し、かつ会津が落ちてきたら中に絞ってプレーする、と。

 その分、逆サイドの左サイドバックの野口(航)くんが積極的に上がるようにします。

 野口くんが上った時は、左サイドハーフの西澤健太くんが中に絞って、トップ下の戸嶋祥郎くんと2シャドーで1トップの中野誠也くんをサポートする……つまり、攻撃時は3-4-3のイメージで攻める。これがきちんとできるかがポイントだと思った」

 これが鈴木徳真がベンチで考えていた分析だ。

 そして、その通りにチームは有機的に動いていたのだという。

選手交代の内容により、自分で攻め方を切り替えた。

 結果、筑波大は相手のシュートを前半僅か3本に抑え、逆にその3倍の9本のシュートを放った。

 そして後半、思うように攻撃を組み立てられない福岡は、システムを3-4-3気味に変化させてきた。だが、筑波大はその「わずかな変化」もピッチ内外で瞬時に感じ取り、チーム全体で対応させた。

 福岡が63分にFWウィリアン・ポッピに代えてFW松田力を、67分にFW三島勇太に代えてFWジウシーニョを投入した時も、彼らの分析力は冴えわたっていた。

 ベンチ横でアップをしていた鈴木徳真も、「相手が前掛かりにくる合図をくれたので、逆に攻撃できるチャンスだと思った」と、試合の潮目がきたことを察した。

 69分、筑波大はその予定通りにカウンターを仕掛け、中野がヘッドで押し込み、先制点。79分には右サイドのスペースでボールを受けた浅岡がクロスを出し、これを再び中野がダイビングヘッドで突き刺し、リードを2点に広げた。

 いずれの得点も、計算され尽くした分析があった上でのゴールと言えた。

途中交代の鈴木徳真も、予定通り「これならいなせる」。

 2−0とリードしていた81分、戸嶋に代わってついに鈴木徳真が投入される。

「相手は2点目の直後に3枚目のカードを切って交代枠を使い切っている……焦れてきている証拠だし、これならいなせると思った」

 鈴木徳真は、中盤で時間を作ることによって相手の攻め気をそらし続けることを決めていた。

 結局、89分にCKから1失点は喫したものの、アディショナルタイムを含めて最後まで冷静に戦い抜いた筑波大が、2−1の勝利を掴みとることとなった。

「ピッチ上には選手達の日常が出るんです」

 小井土監督は言う。

「ピッチには選手達の日常が出るんです。『普段からいつも考えているかどうか』が大事なんです。

 試合を見て『こういうメカニズムになっているんだ』とか『こんな状況も起こり得るんだ』と感じて、その分析したことを自分の言葉できちんと語れる選手は、吸収力も高いし、サッカーIQも高い。

 言われてやったり、言わされてやっているプレーでは、本当の意味で自分で考えて行動できていない証拠です。要は自立できていないんです。

 我々は選手達をピッチ上で自立させることが役目。普段からの自分自身への向き合い方だけでなくて、サッカーというスポーツに対する向き合い方も重要。

『パフォーマンス局』に所属する選手達はもちろん、それをフィードバックしてもらう選手達もしっかりと自分自身とサッカーに向き合っているからこそ、個別の理解も深いし、共有もできるんです」

 ピッチ上で選手として激しくプレーすると同時に、ピッチ外ではアナリストとして冷静にデータを分析し続ける……この2つの作業を日々コツコツと積み重ねてきた筑波大蹴球部。

 天皇杯で彼らが見せつけたジャイアントキリングは、もしかすると、彼らにとっては必然であり、変わらぬ日常だったのかもしれない。

文=安藤隆人

photograph by Kyodo News