今年ほど「連勝」「連敗」が話題になる年は珍しいのではないかと思う。

 連勝と言えばもちろん、将棋の藤井聡太四段だ。2016年12月24日に加藤一二三九段との対局に勝利後、破竹の勢いで勝ち星を積み重ねると、半年後の2017年6月26日、増田康宏四段との対局で新記録となる公式戦29連勝を達成した。

 筆者は藤井四段と増田四段の対局の現場で、藤井四段の言葉を借りれば歴史的瞬間に立ち合う「僥倖」に恵まれたわけだが、将棋会館の中で一番広い18畳の特別対局室にテレビ、スチールカメラがぎゅうぎゅう詰めになった様子は、藤井四段に対する注目度の高さの現れだったことは間違いない。

 一方で今季のプロ野球では、大型連敗が各チームを苦しめている。昨季日本一に輝いた日本ハムが序盤戦で10連敗、千葉ロッテも8連敗。セ・リーグでは阪神が、金本知憲監督就任後では最長の8連敗を喫した。

 何よりも衝撃を与えたのは巨人だった。球界の盟主と呼ばれる巨人にとって屈辱以外の何物でもないだろう、チームワースト記録となる13連敗。ちなみに巨人の陰に隠れたが、ヤクルトも交流戦開幕から10連敗。そしてオールスター直前に今季2度目の10連敗をするなど、各球団ファンの心境を思うといたたまれない。

連勝といえば“霊長類最強”のあの人。

 連勝と連敗は、ファンにとっては喜びあふれる、もしくは辛く涙をこらえたくなる時期が延々と続く状況だ。それは色々な意味で稀有な経験とも言えるが、そんな記録で印象的なものをピックアップしてみた。

 まずは連勝からだ。無敵の日本人アスリートと言って真っ先に思いつくのは、この3人だろう。

 吉田沙保里、伊調馨、田村亮子(谷亮子)。

 五輪や世界選手権などの実績などは、記述するのも野暮だろう。レスリングと柔道で積み重ねた連勝数は以下の通り。

吉田:206連勝(2001年〜2016年。個人戦のみの成績)
伊調:189連勝(2003年〜2016年。1試合の不戦敗は除く)
田村:84連勝(1992年〜1996年)

勝ち続けるプレッシャーも辛いもの、らしい。

 2001年12月の全日本選手権準決勝・山本聖子戦に負けて以来、個人戦で勝ちっ放し。“霊長類最強”とのニックネームがすっかり定着した吉田の連勝は、リオ五輪決勝で止まった。試合後のインタビューで「取り返しのつかないことをしてしまって……」と号泣しながら話したシーンは、勝ち続けねばならない重圧を背負っていたことを痛いほど感じさせた。

 また吉田と同じく田村も、バルセロナ五輪決勝に敗れた後に始まった連勝記録が、アトランタ五輪決勝という大舞台で止められている。

 同じ1対1の個人競技である相撲での連勝記録トップ2は、双葉山、白鵬という時代を代表する大横綱2人だ。前者は69連勝、後者は63連勝と圧倒的。ちなみに白鵬は43連勝、36連勝を1回ずつ、33連勝を2度も記録している。歴代勝利数トップが近づくのも納得である。

 シーズン通じて戦う球技はどうか。野球だとMLBでシカゴ・カブスの23連勝、日本プロ野球では南海ホークスの18連勝が最長記録だが、どちらも半世紀以上前の出来事ということでピンと来ない。

 むしろ近年で言えば“個人連勝”の方が馴染み深いかもしれない。2013年に楽天を日本一に導いた田中将大の24勝(1S)の記録は鮮烈だった。ちなみにこの成績を置き土産にヤンキースへと渡った田中は2014年5月に敗戦を喫するまで、日米合わせて34連勝という途方もない勝ちっぷりを発揮した。

サッカーは連勝と強さが連動しない?

 サッカーの場合、悩ましいのは「引き分け」の存在だ。Jリーグは2005年に「公式戦における『連勝・連敗』の定義」について発表して、「連勝・連敗は引き分けを挟まない」ことを明記している。そのためJ1の「最長連勝」と「最長無敗記録」の2つを紹介する。

 まず純粋な連勝は、1998〜99年の鹿島アントラーズが達成した16連勝だ。ただ当時はまだJリーグが延長Vゴール方式を採用しており、延長戦で勝利したのが3試合ある。

 引き分けを含めた「無敗記録」を調べてみると、保持しているのは大宮アルディージャ。2012年終盤戦から2013年第10節まで21戦無敗、13勝8分けの成績を残したのは記憶に新しいだろう。しかし2012年、2013年の順位はそれぞれ13位、14位。強いから連勝する、というわけではないのが難しいところだ。

 世界の有名クラブではどうか。昨季リーガとチャンピオンズリーグの2冠を達成したレアル・マドリーが公式戦40戦連続不敗を達成したが、その期間での最長連勝記録は「16」だった。さすがの白い巨人とはいえ、連勝を伸ばすのは至難の業のようだ。

生涯不敗のメイウェザーという化け物。

 テニスでは、ジョコビッチが2010年から2011年に43連勝、フェデラーは2006年から2007年に41連勝をマーク。サーフェス別で分けると、フェデラーは芝コートで65連勝、ハードコートで56連勝を記録している。そしてナダルはクレーコートで81連勝と“赤土の帝王”ぶりを発揮。2017年に復活を遂げたフェデラーとナダルは、連勝という視点でもやはり伝説なのである。

 そしてデビューから引退まで全勝、というケースもある。それはボクシングのフロイド・メイウェザー・ジュニア。1996年のプロデビューから足掛け20年間にわたって積み重ねた戦績は、49戦49勝無敗という圧巻の成績。

 ただそのうちKO数は26で、2015年に注目されたマニー・パッキャオ戦で見せた徹底したようなアウトボクシングには“臆病者だ”という批判も多い。勝ち続けるためにはリスクを抑えるのがポイントなのかもしれないが……。現役復帰した2017年8月には現UFC王者コナー・マクレガーとのボクシングマッチで「50連勝」の大台に乗せるのだろうか。

3年がかりで負け続けたピッチャーも……。

 続いては連敗だ。「今さら暗黒時代を蒸し返さないでくれ」と憤るファンもいるかもしれないが……こちらは主な連敗記録を箇条書きする。

将棋:野本虎次八段 30連敗(1999年〜2002年)
J1:京都 17連敗(1996年)
プロ野球:千葉ロッテ 18連敗(1998年)
野球投手:権藤正利 28連敗(1955〜1957年)

 連敗を続けたとはいえ、野本八段は将棋界の“年間リーグ戦”にあたる「順位戦」でB級2組に所属経験がある実力者だった。ちなみに藤井四段のデビュー戦の相手で「神武以来の天才」と言われた加藤九段も1998年から1999年にかけて21連敗、引退直前にも23連敗を喫している。それでも77歳まで現役を続けたのだから、負け続けてもなお偉大と言える。

 J1昇格1年目だった'96年の京都は、シーズン途中にラモス瑠偉を補強するなど懸命に戦ったが、17連敗。しかも延長戦での敗戦は17敗目だけで、あとは90分での力負けだった。ちなみに対戦相手の得点者を見ると三浦知良(V川崎)、中田英寿(平塚)、スキラッチ(磐田)らの名前が並び、時代を感じさせる。

 ロッテについては、連敗記録更新となった17連敗目の試合で、当時エースの黒木知宏が9回にリリーフとして登板したものの同点本塁打を浴び、マウンド上で動けなくなるシーンを覚えている人もいるかもしれない。しかし実は、シーズン終了してみると、最下位とはいえ優勝した西武とのゲーム差は9.5。勝敗を見ても61勝71敗3引き分けと、圧倒的に力が劣っていたわけではない。

 実力は劣ってないはずなのに「勝たないと」の気持ちが空回りする。スポーツの世界では、上手くいかない時の“あるある”ではないだろうか。

負け続けることで人気になったレアケースもある。

 そのほかにも相撲では、1場所で「0勝15敗」に終わったケースも散見する。最近で言うと2005年九州場所・十両の燁司だが、最後まで休場に逃げず土俵に立ち続けた心の強さは見習いたいものである。

 負け続けることで社会現象を巻き起こしたケースもある。競馬で一躍アイドルホースとなった「ハルウララ」だ。1998〜2004年まで地方競馬に出走し続けたハルウララの通算成績は、負けも負けたり113戦全敗。

 成績だけを見れば「なんでそんなに走らせるの」と思ってしまう人もいるかもしれないが、健気に走る姿がテレビを中心にメディアで大ブームになった。「無事是名馬」を地で行くような敗戦が人々を魅了した、という意味では唯一無二の馬と言える。

 ここまでズラリと連勝・連敗を挙げてきたが、このような経験をするアスリートはごくごく一握り。勝ったり負けたりするからこそ、面白い。それは何の競技でも共通するものだろう。

文=茂野聡士

photograph by Tadashi Shirasawa