6月27日発売の『フランス・フットボール』誌では、その3日前(6月24日)に30歳の誕生日を迎えたリオネル・メッシを取り上げていた。フローラン・トルシュ記者がロサリオ(アルゼンチン)での少年時代の長いルポルタージュを書いているのに加え、トマ・シモン記者が30代で起こり得る肉体的・精神的変化を専門家の声とともにレポートしている。

 ジネディーヌ・ジダン監督のもと、休息のリズムやプレースタイルを大きく変えたクリスティアーノ・ロナウドのように、メッシもまた年齢に応じた変化が求められるのか。シモン記者が分析する。

監修:田村修一

30歳のメッシは、今でもトップコンディションだ。

 30代に足を踏み入れることは、リオネル・メッシにとって決して心理的な障害ではなかった。ただ、それでも幾つかの用心は必要。エキスパートたちが理由を説明する――。

 30歳は、人生において特別な意味を持つように見える。ひとりの人間が人生の岐路にたつのが30という年齢であり、トップクラスのアスリートの肉体にも変化が現れるのがこの年齢であるからだ。だからこそ、身体の管理はこれまで以上に重要になる。

「そうはいってもメッシに関しては、ほとんど何も変わらないだろう」とAJオセールでフィジカルコーチを務めるセドリック・ブロムは即答する。

「30歳のメッシは、相変わらずトップコンディションを維持し続けている。バルセロナで彼は定期的にテストを受け、査定された評価に基づいてトレーニングを重ね試合での役割も定められている。

 30歳が引退の目安というのはフランス的な考え方だ。彼の場合はまったく当てはまらない。いまだに全盛期にあるといえる。

 もちろん身体の管理は年齢に応じたものに変えていかねばならないし、連戦の負荷をできるだけ軽くする必要はあるが、留意すべきはそれぐらいだ」

メッシはプレースタイルを変える必要こそないが……。

 トゥールーズでブロムと同じ仕事に従事するバティスト・ハミドも、方向性こそ多少異なるものの現状分析はほぼ同じである。

「普通は30歳を迎えると年齢を考慮せざるを得ない。だがメッシの場合は、バルサのスタッフが状態を十分に把握している。昨年から1年が過ぎて30歳になったからといって、彼がプレースタイルや役割を変えねばならない理由は何もない。彼らは確固たるストラテジーを確立していて、(メッシにとって)何が良くて何が良くないかをすべて理解している。アスレチックな負荷を変えるのはかえって危険だ」

 とはいえ30歳への疑問がすべて解消したわけではない。

 とりわけこの10年間、2年に1度の割合以上でシーズン50試合以上の出場を果たし、フィジカル・メンタルの両面で過度の負荷をかけられたうえに、2004年から常に世界最高レベルに身を置くことで並はずれた拘束を受けてきた選手にとっては、30歳の節目は黙って通り過ぎていいものではない。

「瞬発力はすでに下降線。筋肉の量も減りつつある」

 元フランス代表専属ドクター('04〜'08年)で、フィリップ・トルシエ監督時代は日本代表とも関係が深かったジャンピエール・パクレ医師はこう述べている。

「(30歳というのは)筋肉の機能とフィジカル能力に衰えが見え始める年齢だ。もちろん個人差はあるが、誰もが心に留めておくべきことだ。

 アスリートとしてのパフォーマンスは徐々に低下していき、疲労の回復も遅くなる。それまでとは異なる、それぞれに応じた個人的な身体のケアが必要になる」

 ニース・ソフィアアンティポリス大学スポーツ科学部教授で、教育・スポーツ・健康に関する人体運動機能研究所(LAMHESS)の副所長でもあるジャンブノワ・モランもパクレと意見を同じくする。

「瞬発力はすでに下降線に入っているし、筋肉の量も減りつつある。生理学的には仕方のないことで、それがさし当たり大きな影響を与えるわけではない。特別なトレーニングで補えるし、低下も抑制できる。フィジカルテストを実践しながらすでに始めているだろう。

 ピッチ上のパフォーマンスを見る限り、自分の身体の状態に即したプレーを実践できる知性を持ったメッシには、何の衰えも感じられない。予測しながら動きを調整している彼のアクションは今も爆発的だ」

「筋肉の衰え」よりも「関節の衰え」が問題だ。

「その微妙な数メートルの差を作り出すのは、スプリントでも長い距離を走ることでもない。試合の中でプレーをコントロールする術を、彼はすでに十分に身に着けている」(モラン)

 そうはいうものの30歳という年齢には、異なる要因が別の方向から絡んでくる。パクレが説明する。

「それは関節の衰えだ。13年間にわたり高いレベルでプレーし続けた影響がここに現われる。軟骨や半月板が少しずつ損傷していき、やがてそれがパフォーマンスにも影響を与えるようになる」

 それは内転筋への負荷となって現れるという。

「残念ながら彼はすでにそこを痛めている」とモランは語る。

「そのうえ年齢的なものも加わり筋力も低下して、怪我の危険は三重の意味で増える。

 もちろんメッシが近いうちに負傷するわけではないが、可能性が増しているのは間違いない。だからテクニカル・スタッフには、これらの要因を考慮した的確な対応が求められる」

C・ロナウドはジダン監督の導きにより健全であり続けた。

 メッシより2歳年上のクリスティアーノ・ロナウドは、一足先に同じ状況を迎えた。

 ロナウドの場合、監督のジネディーヌ・ジダンがしっかりと保護して状況をコントロールしたことで、レアル・マドリーはチャンピオンズリーグ2連覇の偉業を達成できた。

 パクレはいう。

「ジズーは状況を完全に掌握している。彼がロナウドを説得して、しっかりと休養をとったうえに、綿密な回復プログラムを実践させたのだろう。そこにはアスリートの身体への知性が働いている。

 もちろんメッシにはそれが働いていないと言いたいのではない。そうではなくて、それも監督の才能のひとつということだ。それから医師としてもうひとつ言えるのは、私はバルセロナのメディカルチームをよく知っている。彼らは選手を緊密にサポートしている」

「最も重要なのは精神的な疲労や摩耗だ」

 ピザとソーダが大好物だったメッシは、2年ちょっと前からイタリア人食事療法士であるジュリアーノ・ポゼルを呼んで食事のコントロールをしている。

「30歳に近づいたからいい習慣をはじめるというのでは意味がない」とパクレは警鐘を鳴らす。

「最も重要なのは、精神的な疲労や摩耗といった選手の心理面だ。

 彼はとても若いときからトップでプレーしている。そんな選手はある時期を過ぎると往々にしてモチベーションを失う。

 メッシにその兆しは見られないが、いつ現れるかは誰にも予測できない」

 本人だけがそれを自覚できる。メッシの場合もそれは同じである。

文=トマ・シモン

photograph by Ferran Quevedo/Mundo Deportivo