後半戦のスタートは手厳しい結果に終わった。

 大宮アルディージャ(16位)は、J1残留を争う北海道コンサドーレ札幌(15位)と対戦したが後半アディショナルタイムにこの日、2本目のFKを福森晃斗に決められて2−2のドロー。16位のままでJ2降格圏から脱出することができなかった。

 札幌戦を見ていると選手交代の判断や試合の終わらせ方などに課題がまだある。

 だが、5月28日に渋谷洋樹監督が解任された後、伊藤彰監督が指揮を執ってから、これでリーグ戦は2勝2分1敗、勝ち点8を稼いでいる。渋谷前監督が13試合で勝ち点7だったことを考えれば、指揮官の交代は「吉」と出ていると言ってもいいだろう。

 実際、試合内容、とくに攻撃面でいいところが出てきている。

4-1-4-1システム採用で、江坂が覚醒しつつある。

 伊藤監督は、4-1-4-1のシステムを敷いているが、これはブラジル代表を率いるチッチ監督が敷くシステムと同じだ。ちなみにチッチ監督が4-1-4-1のシステムを採用して復活したブラジルは南米予選で8戦8勝という好成績を残し、ロシアW杯出場を世界最速で決めている。

 大宮の攻撃力を、ネイマールらスペシャルな個人能力を持つブラジルと比べるのは無理があるかもしれない。とはいえ全体をコンパクトにして高い位置からボールを奪う形を徹底し、前線は流動的に動き、かつ全体が連動している。その結果、伊藤監督が就任以降、5試合で9得点を奪い、13試合7得点と壊滅状態だった攻撃が再生されつつあるのだ。

 このシステムによって覚醒しつつあるのが、1トップの江坂任だ。

 札幌戦で後半4分、大前元紀のシュートのこぼれ球を詰め、今季6点目を決めた。

「うまく繁君(横谷)のところに繋がって、元紀君(大前)がニアに走った瞬間、自分は繁君からマイナスでもらおうと思っていた。そこでマイナスに行ったのでこぼれ球に反応できたと思うし、ヘディングした後、サポートに行ったのがゴールに繋がったんだと思います」

 得点のシーンについて江坂はこう振り返った。

前体制で無得点、伊藤新体制になって5試合5得点。

 ただ形としてはその2分前、先制点でのこと。江坂が見せた動きにゴール感覚の鋭さをより感じた。横谷がDFとヘディングで競り合い、ボールがGK前にこぼれるの予測して江坂が突っ込んだのだ。これに慌てた相手DFのクリアがイージーなこぼれ球となり、大前のゴールにつながった。

 江坂は昨年、群馬から大宮に移籍し、2列目を主戦場として31試合8得点を挙げた。その実績が買われて開幕からスタメン出場し、大前や瀬川祐輔と2トップを組んでプレーしていたが、渋谷前監督の時は1得点のみだった。それが伊藤監督に変わり、4-1-4-1になってから5試合で5得点と量産している。

 好調の理由は何なのだろうか。

「まず、後ろでのボールの回し方がうまくなったのが大きいと思います。システムを変更する前は、ボールをあまり受けることができなかったのでしんどかったんですが今はボールを間、間でうまく受けてリズムを作り、そのいいリズムのままシュートのところに顔を出せています。その時も1回顔を出して相手がボールウォッチャーになって自分が消えてから、まだ出ていくので相手は捕まえづらいと思うし、それがうまく出来ているのが好調の理由かなと思います」

「何回も顔を出してパスを受けて、差をつけないと」

 センターFWはゴール前にドンと構えてあまり動かな位タイプもいるが、江坂は真逆だ。もともと屈強なセンターFWタイプではないし、ラストパスに対して点で合わせるタイプでもない。175センチ、68キロの身軽さを生かしてシャドーの位置まで下りてきてポイントを作り、またゴール前に飛び込んでいく。その動きに相手がついてこれないので、いい状況で勝負ができている。

「自分は、ゴール前で待つセンターFWのように体がすごい強いわけではないですし、足がめちゃくちゃ速いわけでもない。何回も顔を出してパスを受けて、動きのところで差をつけないといけない。前よりも攻守に仕事量が増えましたけど、その分、自分のリズムを作れるのでやりやすさはすごく感じています」

 江坂が「やりやすさとやりがいを感じる」という1トップ、それに4-1-4-1のシステムは、“大宮再生”のポイントになるだろう。

4枚の中盤が2トップになるなど、変幻自在の形に。

 渋谷前監督は昨年5位に躍進したチームにあって昨季まで攻撃の中核だった家長昭博を生かした戦い方、いわば「家長スタイル」を継続した。しかし家長がいない中でそのやり方がハマらずく、前線は機能不全に陥り、ほとんど攻撃の形を作れなかった。得点力が落ちて守備の負担が大きくなり、結果を出すことができなかった。

 だが、今はまるで違うチームとなっている。

 1トップの江坂、攻撃的MFの大前、インサイドMFの横谷と茨田陽生、攻撃的MFの岩上祐三で組む4枚の中盤はバランスが向上した。江坂が下がって空けたスペースに横谷や大前が走り込み、攻撃の形を作ったところで江坂が飛び込んでくる。あるいは横谷が高い位置を取り、岩上が中に絞って大前との2トップになる時もある。

「ある程度、臨機応変にやれているのも得点に繋がっているんだと思いますし、守備の時も空いているところに全員がカバーするようになっています」

 江坂は、チームの戦い方に手応えを感じている。

「てっぺんをやらせてもらっているんで得点を……」

 それと同時に、今後もゴールでチームを引っ張ることが求められる。

 昨年は8ゴール、今季はシーズン約半分の時点ですでに6ゴール。得点ランキングこそ12位タイだがPKなしの6得点は価値がある。ゴール前での落ち着きなどには課題があるが、得点を取った試合は2勝2分けで無敗である。

「負けないじゃなく、勝たせないといけないですね。てっぺんをやらせてもらっているんで得点にこだわらないといけない。まだ6点ですし、昨年よりも試合に出せてもらっているので最低でも二桁は取らないと。ただ、今シーズンは自分の得点よりもチームを残留させないといけないと思っています」

 背番号7を身につける男には、エースとしての自覚が出てきている。

「何回もボールを受けてゴール前に入る回数を増やしていけば恐い選手になれると思うし、得点を取って警戒されると他の選手がフリーになれる。そこにこだわってやっていきたいと思います」

 FWとしての理想も明確だ。

もし江坂−大前−横谷ラインが川崎のようになれば。

 今後、江坂−大前−横谷のラインが、もし川崎の小林悠−阿部浩之−中村憲剛のようになれば、相手の脅威は増すはずである。そこにおのずと江坂の得点が増えていけば、より“恐い選手”になっていくだろう。

 J1リーグは2週間の中断期間に入る。

 大宮はアグレッシブなサッカーに転換し、まずまずの結果が出ている。さらにFWマルセロ、MFカウエら新加入の選手がレギュラー争いを激化させていくだろう。油断は禁物だが、J1残留に向けて明るい兆候が見えているのは確か、である。

 キャンプ期間中に選手が4-1-4-1の戦術理解度を深め、より機能的に動くことができれば決戦の秋に向けていいチーム状態で臨めるはずだ。

 その先頭には、もちろん7番のエースが立つことになる。

文=佐藤俊

photograph by N.O.ARDIJA