“ボンバー・レフト”炸裂せず─―。

 15日(日本時間16日)、米カリフォルニア州イングルウッドのフォーラムで行われたWBC世界スーパー・フェザー級タイトルマッチで、元世界王者の三浦隆司(帝拳)はチャンピオンのミゲル・ベルチェルト(メキシコ)に大差の判定負け。1年8カ月ぶりの王座返り咲きはならなかった。

 試合の模様を中継したWOWOWの放送局で観戦した帝拳ジムの浜田剛史代表は、ため息交じりに口にした。

「相手があそこまで脚を使うとは思いませんでしたね。三浦はためてパンチを打ちますから。それがすべて悪いほうに出てしまった。終盤に出たボディブローが序盤から出ていれば……」

 サウスポーの三浦の武器は“ボンバー・レフト”と称される左の強打だ。ポンポンと軽快に手数が出るわけではないが、力をためて思い切り振り下ろす左の威力は、このクラスでは世界屈指と言えるだろう。前に出て圧力をかけ、得意の打ち合いに持ち込む。それが三浦のやりたいことだった。

極めて高いKO率を誇る相手が、三浦を警戒していた。

 ベルチェルトの戦績は試合前の段階で32戦して31勝28KO1敗。三浦の31勝24KO3敗2分と比べても高いKO率を誇り、ゆえにタイミングを見て打撃戦に打って出る、という期待もあった。しかしこれが初防衛戦となるメキシコの王者は、虎の子のベルトを守るべく、三浦の土俵に入るような愚を決して犯さなかったのである。

 初回から三浦は苦しんだ。左右に動くベルチェルトに距離をキープされ、“ためて”打つ三浦はほとんどパンチが出せないというスタート。おまけに初回終了間際、軽く合わされた右、左のコンビネーションでダウンを喫してしまった。

 ズルズルとポイントを失ってしまった三浦は5回から反撃開始。うなり声をあげてチャンピオンに迫り、8回にはボディブローを効かせてチャンスを作ったが、あともう一発が出ない。逆に王者は三浦が疲労するラウンド終盤に細かくパンチをまとめてポイントをピックアップ。終わってみれば、ジャッジ1人がフルマーク、残りが11ポイント差、5ポイント差という完敗だった。

村田諒太「ベルチェルトは作戦が徹底していた」

 三浦が後半に見せたボディ攻撃は、見る者の心を激しく揺さぶる迫力があった。劇的な逆転勝利もありうると思わせたが、逆転への望みは、ベルチェルトの技術と強い意思によって阻まれた。

 三浦のジムメイト、ミドル級世界ランカーの村田諒太は次のように解説した。

「ベルチェルトは逃げるときは逃げる、三浦さんが打ち終わりにバランスを崩したときに打つ。本当に作戦が徹底していましたね。終盤、ボディをもらって下がりましたけど、11、12回は前に出て、台風の目の中に入るようにして、ボディをもらわないようにした。うまかったと思います」

 ベルチェルトは「三浦に勝つにはこれしかない」というボクシングを終始展開し、終盤のピンチも機転を利かせてしのいだということだ。5ポイント差のジャッジは後半、三浦に好意的な採点をつけたが、それでも11、12回はベルチェルトを支持した。

王座陥落後も世界ランク1位だったが……。

 試合後の三浦は次のように語っている。

「(脚を使う相手に)追い込みが足らなかった。効いた左ボディもありましたけど、うまく逃げられました。練習したことは出せたと思うけど、それ以上に相手がうまかった」

 2015年11月、三浦は米ラスベガスのリングに立ち、4度防衛した王座をフランシスコ・バルガス(メキシコ)に敗れて失った。負けはしたものの、この試合はダウンの応酬、まれにみる激闘となり、全米ボクシング記者協会をはじめ、多くの米メディアが年間最高試合に選出した。

 この試合内容を考慮され、三浦は王座陥落後もWBC世界ランキングで1位をキープ。今回のイベントでメインに抜擢されたのは、ベルチェルトの人気と実力のみならず、激闘を売りにする三浦が相手だったことも一因だった。

三浦も33歳、ダメージも感じさせる。

 この日はセミで、内山高志(ワタナベ)のV12を阻み、再戦でも返り討ちにしたWBA世界スーパー・フェザー級“スーパー”王者のジェスレル・コラレス(パナマ)が登場。負傷判定勝ちながら防衛を成功させた。

 スーパー・フェザー級はトップにWBO王者のワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)が君臨し、他3団体の王者がこれを追跡する構図となっている。

 今後はこのクラスのタレントたちが、統一戦を含めたビッグマッチを展開していく流れだ。三浦も勝っていれば主役の1人になっていたはずだが、今回の敗戦で脱落した感は否めない。

 アメリカやメキシコで世界タイトルマッチを戦い、その力量を海外でも認めさせた三浦も気が付けば33歳になった。初回、それほど強くは見えないパンチでダウンした姿には、激戦を重ねてきたボクサーならではのダメージも感じさせた。

「今までは負けた試合でもダウンを取ったり、見せ場を作ったりしたけど、今回は完封されましたから。気持ちをどう持っていくか」

 2011年に内山に初めて世界挑戦をして叩きのめされてから6年半。朴訥な語り口と、決して器用とは言えないファイトスタイルでファンを魅了し続けた好漢が、ボクシング人生の岐路に立たされた。

文=渋谷淳

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