勢いが、止まらない。

 ジュビロ磐田のことだ。中断前のJ1リーグ戦で甲府を破り、5連勝を達成。直近の6試合で1つも負けがない。しかも、この間にG大阪、浦和、FC東京といった有力クラブを次々と撃破。フロックとは言い難い試合内容の充実ぶりが際立っている。順位の方もじりじりと上げて、現在(18節終了時点)は7位にランク。それでもトップを走るC大阪との勝ち点差がわずか7ポイントという混戦模様なのだ。この先、十分に上位へ食い込めるポジションにつけていると言っていい。

 それにしても、破竹の勢いは、どこから来ているのか。

 要因を探っていけば、名波浩監督の情理を尽くしたマネジメントの妙に突き当たる。その中から、今回は緻密な戦術面にスポットを当ててみたい。というのも、ジュビロ最大の強みがよく訓練されたディフェンス組織にあるからだ。それは数字にも表れている。失点15は横浜FMと並ぶJ1最少。1試合平均にすれば「0.83」だから、1点取れば最低でも勝ち点1を拾える計算だ。ここ6試合で実に5試合がクリーンシート(無失点)という手堅さ。まさに難攻不落の要塞と化している。

鉄の三原則は「縦ズレ」「横ズレ」「中締め」。

 システムは3-4-2-1。7節の鳥栖戦を境に当初の4-2-3-1から3バックへシフトしている。名波監督の掲げる鉄の三原則が「縦ズレ」「横ズレ」「中締め」だ。

 それぞれの表現を、このように言い換えてもいい。

(1)3ラインの上下動
(2)ボールサイドへ寄せるブロックのスライド
(3)バイタルエリアの封鎖

 その1つひとつに目新しさはないものの、ブロックを構成する10人が3つの作業をシンクロさせながら、一体の生き物のように動くのだ。そのオートマティズムのレベルがきわめて高い。

名波監督が現役時代に感銘を受けた高速スライド。

 3バックと言っても、その実は5バックというのが定番だろう。ところが、ジュビロの3バックはまったく違った仕組みから成り立っている。原則、左右のウイングバックは同時に最終ラインへ下がらない。代わりに3バックがボールサイドへがっちり寄せるのだ。これに伴い、ボランチか逆サイドのウイングバックが落ちて中央の人数を「3」に保つ。こうして「かりそめの4バック」を立ち上げるわけだ。効率よくムダがない。そのために独自の細工を施すあたりが名波監督らしさだろう。

 ちなみにジュビロ式3バックのスライドは元日本代表監督のアルベルト・ザッケローニやジャン・ピエロ・ガスペリーニ(現アタランタ監督)もかつて採用していた。ただ、名波監督が着想を得たのは1998年のフランスW杯を制したフランスだ。こちらは4バックだが、右のテュラムと左のリザラズを高い位置に留める(残る2人、または3人の)高速スライドに感銘を受け、それを3バックに落とし込んでいる。例の「縦ズレ」も含め、ハイレベルな守備組織の仕組みを「盗んだ」わけだ。

球を奪いにいく力が、逆襲へ転じたときの「助走」に。

 いかに最終ラインの両脇に広がるスペースを消すか。3バックに付きまとう課題を大胆なスライドと縦のカバーの「合わせ技」で克服しているが、真の狙いは攻撃にある。安易にウイングバックを下げないのも後ろに人を余らせず、敵を前において守らせるためだ。高い位置に留まるウイングバックを含め、球を奪いにいく(前へ出る)アクションがそのまま逆襲へ転じたときの「助走」になっている。

 縦への推進力に秀でた駒が手元に数多くあり、その個性を十全に生かす企みでもあるわけだ。

 ジュビロの戦法を端的に言えば堅守速攻だが、後ろに引きっぱなしでは点が取れない。そこで最終ラインの押し上げが効いている。3バックを束ねる大井健太郎のラインコントロールだ。王者・鹿島を完封した試合では実に8回もオフサイドの網にかけている。引いて守るだけではできない芸当だ。また、ブロック全体がきわめてコンパクトに保たれている点でも大井の存在が大きい。絶えず周囲に目を配り、微調整を促してきた。ブロックにギャップ(隙間)が生じにくい一因だろう。

俊輔、川又、アダイウトンの前線も“黒子”の役割。

 最終ラインの押し上げを地味に支えるアタック陣の働きも見逃せない。危険な「裏一発」や縦パスに制限をかけるフィルター役として機能。3人の担当するゾーンも中村俊輔が右、川又堅碁が中央、アダイウトンが左で落ち着いた。深追いを自重しつつ、下がり過ぎない。中村の的確な指示がバランスの維持に一役買っている。もう一つの選択肢である「2トップ+トップ下」はオプションへ。選手側の意見(1トップ2シャドーを支持)を尊重した指揮官の決断がうまく転がった格好だ。

 ここにきて攻撃のアイディアをめぐるイメージの共有が進み、攻と守がコインの裏表のような関係へ発展しつつある。量産態勢に近い川又、アダイウトンの覚醒もこうした文脈の中にある。右へ回った中村が巧みに時間をつくり、川辺駿(ボランチ)や櫻内渚(右ウイングバック)らの推進力を加速させる好循環。これらの要素を丸ごと「上乗せ」できるのも、おいそれとは崩れぬベースがあるからだ。良い攻撃は、良い守備から生まれる――その道筋が見えてきたと言ってもいい。

 5連勝を飾った甲府戦はウノ・ゼロ(1−0)だった。前半に先制パンチを食らわせ、後半は速攻狙いの相手をわざと自陣に引き込み、スペースを取り上げて、まんまと逃げ切った。このカルチョ風リアリズムもディフェンス力への絶対の自信から生まれたものだ。オフェンス面の「余白」を残した状況での快進撃だけに、後半戦の展望も明るい。どこまで余白をぬりつぶし、総合力をアップデートできるか。いつでも立ち戻れる不落の城を築いたからこそ、大胆なチャレンジができるはずだ。

文=北條聡

photograph by J.LEAGUE PHOTOS